ファルマシア
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結晶構造解析法を用いたNMDA受容体の機能解明と創薬への応用
古川 浩康田嶋 南海
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2014 年 50 巻 5 号 p. 403-407

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抄録

タンパク質の立体構造は,1958年にKendrewとPerutzによって初めて発表された.X線回折と構造解析技術の著しい発展に伴い,1980年後半頃からタンパク質構造データバンク(PDB)に登録されたタンパク質構造の数は年々増加し,2013年12月現在登録数は10万件に迫る勢いである.近年では,可溶性タンパク質と比較すると扱いが難しく成功例が少なかった膜タンパク質の構造も,Gタンパク質共役型受容体(GPCR)を筆頭に多数報告されるようになった.タンパク質の構造と機能には相関性があるため,構造を分子レベルで見ることにより,あるタンパク質が生体内においてどのように動き機能しているか,どう共存するタンパク質や核酸,基質や低分子化合物と相互作用するかを理解するのが可能なる.また,構造をベースに,生物学の研究に役立つ・または病気に対する薬効性を持つ阻害剤をデザインすることが理論上可能になる.
現在,高分解能の構造を得るための最も強力な手法はX線結晶構造解析である.加えてX線小角散乱法,核磁気共鳴法,超遠心分析,質量分析,一分子蛍光共鳴エネルギーイメージング,等温滴定型熱量測定や表面プラズモン共鳴分析といった物理学的手法や電気生理学的手法,および生化学的手法を組み合わせることで,目的タンパク質の特性や,結合モード,活性・阻害機構を解明することが可能となる.タンパク質立体構造情報に基づく薬剤設計の例としては,HIVプロテアーゼ阻害剤であるアジェネラーゼやインフルエンザウイルスノイラミニダーゼ阻害薬のザナミビルなどが挙げられるが,これらはタンパク質の構造情報を基に,基質ポケットに当てはまる化合物を設計することで,目的タンパク質特異性と阻害効率の高さを得る化合物の開発に成功した良い例である.また,タンパク質構造情報を用いたin silicoスクリーニングは,広範な化合物の探索をコンピュータ内でシミュレーションし,有用な化合物の数を絞ることで短期間かつ低コストでの効率的な創薬を可能とする.

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© 2014 The Pharmaceutical Society of Japan
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