最も熱心に聞き,印象に強く残っていると共に影響を受けた講義といえば,薬学部3年か4年の頃に聴講した清水博先生の「物理化学IV」だ.この頃は,講義はそっちのけで流行りの現代思想などを読みあさったりしていたが,この講義だけは欠かさずに出席した.毎回楽しみであった.当時,一番関心があったのは,どうして生物がこれほどうまく機能するのか,ということだった.これに対する世のメジャーな回答は,こういう遺伝子があるから,あるいは,こういうタンパク質があるから,というものだったが,清水先生の講義では,生物は物理学的観点から見てどのようにして成り立ち得るのか,という視点で語っておられたという点が際立っていて興味深かった.その中で,疎水的相互作用がキーワードのひとつであることを知り,何でも疎水的相互作用に結び付けて,わくわくしながら友人に語っていた頃が,昨日のことのように思える.