ファルマシア
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挑戦者からのメッセージ
グルタミン酸の神秘
米田 幸雄
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2015 年 51 巻 12 号 p. 1125-1127

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抄録

昆布の旨味成分として,グルタミン酸ナトリウムが1907年に東京帝国大学理学部 池田菊苗教授によって単離同定されて以来,旨味は甘味,酸味,塩味,および苦味に次ぐ第5番目の味覚という地位を確立している.グルタミン酸(Glu)は生体を構成する約37兆個の細胞において,ほぼ例外なく機能タンパク質の構成アミノ酸として不可欠であるばかりでなく,各種細胞におけるエネルギー産生やアミノ酸代謝にも必須の,普遍性の高い生体構成成分である.このような細胞普遍的な機能に加えて,脳内ではニューロンにおける興奮性神経伝達物質(excitatory neurotransmitter)として,脳内興奮性,学習や記憶等の可塑性形成,あるいは精神機能や運動機能等の制御と維持に,重要な生理的役割を演じている.そのうえ,細胞外に高濃度に蓄積されると,興奮性神経毒としてニューロン脱落を招来するため,パーキンソン病やアルツハイマー病など,ニューロンの脱落が著明な神経変性疾患だけでなく,著明なニューロン脱落が観察されない,うつ病や統合失調症などの神経精神疾患の病態発症メカニズムに,Gluが特別の病態生理学的意義を有すると理解される.
一方,脳外組織を構築する各細胞内に見いだされる高濃度のGluは,長年,上述の細胞普遍的な機能に関与すると考えられてきたが,近年になって脳以外の末梢性組織に存在するGluが脳内の場合と同様に,局所性の細胞外シグナル物質として機能する事実が相次いで報告されている.各種細胞間に普遍的なGluの生理的意義については他の成書に譲ることとして,誌面の制限上,本稿ではシグナル物質としてのGluの特異的機能に焦点を絞って概説したい.

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© 2015 The Pharmaceutical Society of Japan
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