2015 年 51 巻 12 号 p. 1182
近年,がんの発生や増殖に関わるシグナル伝達分子が次々と明らかになり,これら分子を標的とした多くの阻害剤(分子標的薬)が抗がん剤として開発・利用されている.なかでも,腫瘍細胞で活性化変異したリン酸化酵素を標的としたキナーゼ阻害剤は,低分子化合物で経口投与が可能という利点もあり,広く臨床応用されている.一般に,分子標的薬は従来の化学療法剤と比べて優れた著効性を示すが,腫瘍の薬剤耐性化により長期使用が困難となる症例も多い.この腫瘍の耐性化は分子標的薬治療にとって克服すべき大きな課題となっているが,そのメカニズムには未解明な点が多い.本稿では,キナーゼ阻害剤によって腫瘍細胞から分泌される液性因子群(セクレトーム)が腫瘍の治療抵抗性・悪性化を促すことを示したObenaufらの論文を紹介する.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Holohan C. et al., Nat. Rev. Cancer., 13, 714-726 (2013).
2) Obenauf A. C. et al., Nature., 520, 368-372 (2015).
3) Shi H. et al., Cancer Discov., 4, 80-93 (2014).