ファルマシア
Online ISSN : 2189-7026
Print ISSN : 0014-8601
ISSN-L : 0014-8601
オピニオン
ビタミンは体内の名わき役
阿部 皓一
著者情報
ジャーナル フリー

2015 年 51 巻 3 号 p. 179

詳細
抄録

ビタミンの発見は,高木兼寛先生が1885年に脚気の栄養欠乏説を提唱し,鈴木梅太郎先生が1910年にアベリ酸と命名した抗脚気因子を結晶単離したことに端を発している.当時は脚気の伝染病説が主流であり画期的な研究が受け入れられるまでには険しい障壁があったといわれている.日本でのビタミン萌芽研究の歴史を引き継いで,ビタミン関係を研究する諸先生の努力により,現在でも世界のビタミン研究をリードしている.なお日本では,欧米と比較してビタミンを医薬品として扱うことが多いため,エビデンス・ベースド・メディシン(科学的根拠に基づく医療)に則って,種々の研究がなされてきた.このことがハイレベルのビタミン研究を維持しているといっても過言ではない.例えば,ビタミンB1剤(アリナミン),ビタミンE剤(ユベラ),活性ビタミンD剤(アルファロール)などの多くのビタミン製剤が世界のビタミン製剤の歴史をリードしたことは事実である.
ビタミンとは,組織の構成成分でなく,エネルギー源にならない不可欠な微量栄養素(有機化合物)であり,現在では,水溶性ビタミン9種類(ビタミンB群8種類とビタミンC)と脂溶性ビタミン4種類(ビタミンA, D, EおよびK)の13種類が認められている.なお,ビタミンB群として20を超える物質が議論されたことがあるが,既存の物質であったり混合物であったり,存在しなかったことにより,現在ではビタミンB1(チアミン)B2(リボフラビン),B3(ナイアシン),B5(パントテン酸),B6(ピリドサール),B7(ビオチン),B9(葉酸),B12(シアノコバラミン)となっている.総じて,ビタミンの働きとしては,①酵素の働きを助ける補酵素作用(主として水溶性ビタミン),②核内受容体を介して,活性なタンパク質を合成する作用(主として脂溶性ビタミン),③抗酸化酵素を助ける抗酸化作用(ビタミンC, EおよびAなど),④その他の薬理学的作用などが考えられる.いずれの働きの場も,構成成分として人体の15~20%を占めるタンパク質が主役であり,ビタミンは名わき役(ビタミンがなければ舞台が成り立たない)を演じていると考えられる.
ビタミン研究の最近のトピックスとしては,①新規誘導体合成(ビタミンA, Dなど)と新しい薬効,②欠乏症とは関係のない新規有望作用(免疫賦活作用,抗菌作用,抗がん作用,神経保護作用など),③核内レセプターによる脂溶性ビタミンの作用メカニズム,④水溶性・脂溶性ビタミンのトランスポーターと吸収メカニズム,⑤遺伝子多型とビタミンの代謝・作用,⑥ビタミンKの体内生合成,⑦ビタミン製剤のよき配合などの解明が挙げられる.また,新たな問題としては,①潜在性ビタミン欠乏症の顕在化,②ビタミンの過剰症に関する安全性などが挙げられる.
最後にビタミンは古くして日本で発見され,いまなお日本を中心に新しき世界が切り開かれていることを述べたい.ユネスコの無形世界文化遺産に認定された和食を味わう際に,種々の色彩の素材を感じ,それぞれにどのビタミンが含有されているかを探ることを私自身喜びとしている.これらのビタミンの神秘たるベールは相当に奥が深いと感じているし,その解明が日本の若い先生方への大先輩からの宿題であると思っている.
私は主として脂溶性ビタミンの分析法,体内動態,薬理作用などの研究に関与して40数年過ぎた.現在では,ビタミンファンを自負しており,毎日規則正しくビタミン剤を摂取している.

著者関連情報
© 2015 The Pharmaceutical Society of Japan
前の記事 次の記事
feedback
Top