ファルマシア
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挑戦者からのメッセージ
痒み研究
掻いてベールをはぎ取ろう
倉石 泰
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2015 年 51 巻 6 号 p. 523-525

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抄録

良くないとは分かっているが我慢できずに掻いてしまう,あの衝動的な感覚を私達は「痒み」と呼ぶ.医学用語の「そう痒(症)」に対応する英語はpruritusであるが,一般に使用される「痒い」「痒み」の英語itchには別の意味もある.COUBILD英語辞典には,「If you are itching to do something, you are very eager or impatient to do it.」と説明されている.「したくてたまらず,我慢できずにイライラする」のが,正に「痒みitch」である.皮膚の表層に局在した寄生虫や刺激物は掻き出せる可能性があるので,それらを除去するために脳が痒み(掻きたいとの衝動)の指令を出すと考えられる.皮膚の深部を含む生体内部の異常で生じる「痛みpain」が,患部を保護するために耐えてじっとする反応を引き起こすのとは対照的である.
手術の際に鎮痛目的でモルヒネなどオピオイド鎮痛薬をくも膜下あるいは硬膜外に投与する.その際に生じる副作用で頻度の高いのが痒みであるが,痒みが強い場合,患者さんは「痛みは我慢するので痒みを取って欲しい」と訴えるそうである.胆汁うっ滞性肝障害で強い痒みが慢性的に起きると掻爬により皮膚がぼろぼろになることもある.また,三叉神経領域の帯状疱疹で,皮疹治癒後に神経障害性そう痒が起き,掻いても(神経障害により)痛みが生じなかったために頭蓋までも掻きむしった症例が報告され衝撃を与えた.皮膚の大きな損傷は痛みを生じ,皮膚表層に限局した刺激・異常が痒みを生じるので,痛みと比較して痒みは一般に苦痛が軽い印象を与えるが,掻いても抑制されない痒みは苦痛・イライラ感が大きく,「生活の質」を著しく低下させる場合も多い.
このように医療の観点からも痒みは重要な感覚である.ところが,そう痒症の病態生理のみならず,痒みの生理的機構もまだ不明な点が多い.痒みの研究者は世界的にもまだ少数である.痒みの研究に多くの若い研究者が参加されることを期待して,筆者の痒み研究の動機などを振り返ってみたい.

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© 2015 The Pharmaceutical Society of Japan
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