2015 年 51 巻 8 号 p. 750-754
我々の腸内には,生物六界のうち五界に属する生物が存在している.特に大腸管腔は細菌の生育にとって最適な環境であり,地球上のあらゆる環境中で最も高密度の細菌が棲息している.このような腸内細菌は,総体として「腸内細菌叢(マイクロバイオーム)」と呼ばれている.ヒト腸内細菌叢は,ヒトが原人であった時から,宿主との相互作用により,腸内環境に最適となるよう共進化してきたと考えられる.近年,腸内細菌叢は,宿主のエネルギー代謝や免疫応答,さらには情動や行動といった中枢神経系にも影響を及ぼすことが次々と明らかになりつつある.本稿では,腸内細菌による生命機能調節作用を紹介したい.