ファルマシア
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オピニオン
薬剤師リポジショニングの時代
北田 光一
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2015 年 51 巻 9 号 p. 825

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抄録

近年の生命科学技術の進歩,製剤技術の進歩は,多くの優れた医薬品の開発・供給を可能としてきた.薬物治療の進歩は目覚ましく,手術をせずに治療することが可能となったり,入院日数や治療日数の短縮による生活の質(quality of life:QOL)の向上や医療費の削減等に貢献している.アルツハイマー病や糖尿病の3大合併症などをはじめとして,いまだに有効な治療方法や決定的な治療薬がなく,治療の満足度が低い病気も少なくないが,多くの優れた医薬品の登場は患者に対して恩恵と希望を与えている.さらに,薬物治療の適正化を実践するための解析方法や生化学的手法の進歩によって,個々の患者に最適な医薬品の選択や投与量の設定などへの臨床活用が可能となり,薬物療法の質が格段に向上している.しかし,薬物療法の選択肢が拡大し,重要性が増大している一方で,医療従事者に求められる知識と情報の量は膨大なものとなり,医薬品に関係するリスクが増大していることも事実である.医薬品に関する情報の共有化を図り,医薬品情報と患者情報に基づいて医薬品の適正かつ安全な使用を実践し,個々の患者に最適な薬物治療を提供する上で薬に関する専門職としての薬剤師が果たすべき役割と責任は拡大している.
一方,我が国は他国に類を見ない人口の超高齢化に伴う,医療環境の激変期を迎えている.慢性疾患や複数の病気を持った患者の急増といった疾病構造の変化に伴って求められる医療が変化し,医療に対する需要・ニーズも多様化してきている.質が高く,安全で安心な医療を求める国民の声の高まりと医療の高度化・複雑化により業務が増大するなかで,限られた人的・財政的資源での対応が喫緊の課題となっている.そこで,医療の効率性の向上による医療従事者の負担軽減と医療の標準化・組織化を通じた医療安全の向上を実現するために,チーム医療の充実が進められている.患者を中心に据えた医療職種の連携から成るチーム医療における薬剤師の役割として,医師等と協働・連携して個々の患者に最良の薬物療法の提供に処方前から関わることが求められているが,薬学的な専門知識に加えて,患者や医師,他の医療職種と緊密なコミュニケーションが取れる能力,患者の変化に対して的確な薬学的臨床判断ができる能力が必要となっている.機械化等による合理化が急速に進行する時代にあって機械化されにくい職能の展開に真剣であるべきである.
これまで,薬剤業務は医療現場,社会のニーズに応える形でモノからヒトへ,中央業務から病棟業務へ,病棟訪問業務から常駐業務へと展開されてきた.そして今はチーム医療の一員として薬物治療に主体的に関わり,薬物治療のモニタリングによる薬学的管理から薬物治療マネージメントへの積極的な関与である.感染制御や栄養サポートにおけるチーム医療や手術,集中治療におけるチーム医療など,病棟横断的なチーム医療が展開されてきたが,病棟において求められている「薬剤業務」は従来の業務内容を大きく超えたものとなっており,これを実践し,期待に応えていかなければならない.
薬に関する専門職として社会の期待に応え,信頼される存在となるためには薬に関する全てのことに責任を持つ覚悟で,明確な臨床的アウトカムを意識した薬学的管理を実践していくことが不可欠である.薬剤師が本来兼ね備えていた外部から見え難かった能力の活用,新たな能力の開発と活用が必要であり薬剤師リポジショニングの時代を迎えているとも言える.いまが飛躍のときである.

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© 2015 The Pharmaceutical Society of Japan
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