ファルマシア
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オピニオン
薬剤師の仕事って? それは…「薬のリスクから患者を守る!!」こと
古川 裕之
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2016 年 52 巻 1 号 p. 1

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抄録

大学薬学部,そして大学院修士課程を経て,母校の医学部附属病院薬剤部に就職してから,38年半が過ぎた.当時,国立大学,それも大学院修士課程を修了した者は,もの好きでないと「薬剤師」という職業を選ばなかった.しかし,個人的には,薬学部を卒業して薬剤師国家試験を受けるのだから,「薬剤師」になるのは当然だと思っていた.
業務と並行して基礎研究を勧める上司との意見が合わず,干されていた.その時に出会ったのが,オレンジ色表紙の廣川書店「臨床薬学と治療学(上,下)」.1978年11月のことである.それは,「Clinical Pharmacy and Therapeutics」というUSA発行書籍の翻訳だった.一番感動したのが,これを,USAの薬学教員と臨床薬剤師がまとめたという点である.そこに希望の光を見た.
干されている僕を見て,家族を含め,周囲の多くは,耐えられずに辞める…と思っていたらしい.その期待(?)に反して,山口大学に移動するまでの33年半,ずっと金沢大学病院に勤めた.「辞める」ことは,「逃げる」ということだと思っていた.社会人になってちょうど30年目,大学院博士課程の社会人学生となった.ピンク色の学生証を持ち,久しぶりに「学割」を使って学会にも出かけた.そして学位取得後,教員になったが,ずっと臨床現場にいた.「薬剤師」を続けるのだから,少しでも多くの経験を積み重ねようと心掛けた.
2012年4月の診療報酬改定で,「病棟薬剤業務実施加算」が新設された.これは,1988年4月に新設された個別評価の「薬剤管理指導料(1994年まで「入院調剤技術基本料」)」とは違って,「体制評価」である.つまり,時間がある時に限られた入院患者のもとに行くというのではなく,全入院患者を対象とした病棟での週20時間の病棟業務が求められた.予想外のことであった.その結果,本院でも,過去3年間で21人の6年制課程卒業生を迎えることになり,現在,全員が1日の半分以上,病棟での業務に従事している.
薬局が仕事の中心であった時代,薬剤師の仕事というのは,ベールに覆われていた.ところが,薬局の外に出て,医師や看護師とともに医療チームの一員として患者の目の前に立った時,「薬剤師の仕事って,何ですか?」という,患者や医療スタッフからの質問に対して,「なるほど!!」と納得してもらえる回答が欲しいと思った.
ずっと考えた結果,たどり着いたのは「薬のリスクから患者を守る!!」というフレーズ.薬物治療において,医師は「有効性」に注目する.薬剤師は「安全性」に注目することにより,医師と薬剤師の良好な役割分担が実現する.薬物治療を受けている患者の多くは,副作用(「薬物有害反応」という意味で使用)に強い関心を持っている.副作用の不安を抱えている患者に,薬剤師が「私があなたを薬のリスクから守ります!!」と伝えたら,その患者は,どう感じるだろうか? きっと,あこがれの王子様に出会ったように,その目が“キラ☆キラ星”になるのでは…と想像した.
「薬のリスクから患者を守る!!」…というフレーズ,本院の患者向け情報誌の10月号表紙にも掲載された.スタッフには,これが「薬剤師の仕事って何ですか?」という質問に対する有効な回答であると説明し,今日もまた,患者のもとに送り出した.

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© 2016 The Pharmaceutical Society of Japan
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