がんは増殖性疾患である.制御されない増殖のために宿主である患者の命を奪う.したがって,これまでのがん研究および抗がん治療の開発は,増殖を主要な標的としてきた.半世紀以上にわたりがん研究で広く利用されてきた樹立がん細胞株は,増殖に特化した実験系である.しかし,あまりにも樹立がん細胞株の実験系が汎用されてきたために,そこでは表現されないがん細胞の特性が見落とされてきた.実際のがん細胞は異なる環境に対して驚くべき適応能力を示す.本稿では低酸素を例にとって,がんの適応能力の高さとそれを標的とした治療法の可能性について解説する.