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便が治療薬に!? 便移植研究の最前線
井上 浄
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2017 年 53 巻 7 号 p. 725

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抄録

便が薬になる.近年,腸内細菌に関する研究が注目を浴び,便が薬になるという事実を耳にした方は多いかもしれない.一方で,初めて聞く人にとっては衝撃であることも事実であろう.実は,この便移植という便を薬として用いる研究・治療法は,意外にも歴史が古く,1700年前の中国の文献に記載があるとされている.また,医学分野における論文については,1958年に偽膜性腸炎に対する症例報告がある.1)その後,2013年に発表された論文により便移植の有効性が示され,あらためて大きな衝撃が走った.2)このNEJM誌に掲載された論文で便移植を知った方も多いかもしれない.再発性Clostridium difficile感染症に対し,便移植の効果が無再発治癒率81%と非常に高く(同時に行っていたバンコマイシンによる治療では20〜30%),難治性,再発例の高い感染症に対し有効な非常に画期的な治療法であることが示されている.
このような背景から,近年では便移植はこれまで治療が難しいとされてきた疾患に対する治療法としても期待されている.難病指定疾患である潰瘍性大腸炎もその1つであり,患者数は国内で17万人を超え,毎年1万人が増加している現状で,効果的な治療法の開発が急務である.潰瘍性大腸炎に対する便移植の効果については既にいくつかの報告があり,治療効果が十分ではない,もしくは治療効果がないという結論であり,従来の方法では不十分であることが示唆されている.本稿では,この潰瘍性大腸炎に対する便移植療法の新戦略となる論文を紹介する.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Eiseman B. et al., Surgery, 44, 854-859(1958).
2) van Nood E. et al., N. Engl. J. Med., 368, 407-415(2013).
3) Ishikawa D. et al., Inflamm. Bowel. Dis., 23, 116-125(2017).

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© 2017 The Pharmaceutical Society of Japan
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