医薬品や農薬へのフッ素の導入は薬物動態や代謝安定性の改善が期待されるため,フッ素化反応の開発は創薬において重要である.しかし,既存の有効なフッ素化試薬は価格や毒性が高いものも多い.一方,フッ化カリウム(KF)は安価かつ取り扱いが容易であり,フッ素源として理想的であるものの,有機溶媒に溶けにくく,反応性の制御が困難であることから,フッ素化反応への適用はほとんどなかった.最近,Gouverneurらは,KFによるβ-ハロアミン類のエナンチオ選択的なフッ素化反応を達成したので紹介する.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Pupo G. et al., J. Am. Chem. Soc., 141, 2878-2883(2019).
2) Pupo G. et al., Science, 360, 638-642(2018).