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薬物性肝障害におけるエクソソームの働き:肝細胞から免疫系への情報伝達
児玉 進
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2020 年 56 巻 1 号 p. 70

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抄録

特異体質性の薬物性肝障害(idiosyncratic drug-induced liver injury: iDILI)は,発症は稀であるが,時に死に至る可能性のある潜在的に重篤な薬物副作用である.iDILIが発症する過程は複雑で,複数の機構が重複して働き,患者個人の特異的なリスク因子と関連することから,その発症機序に不明な点が多く,正確に発症予測する方法は確立されていない.したがって,発症の機序解明や予測試験系の確立は,創薬と薬物治療における重要な課題である.
近年の研究により,特定のヒト白血球抗原(human leukocyte antigen: HLA)タイプを有すると一部のiDILI原因薬物に対する感受性が増加すること,iDILI患者由来の特定のHLAタイプを発現するT細胞がiDILI原因薬物によって活性化を受けること,などが報告され,iDILIの発症には適応免疫が関与することが示されてきた.しかし,iDILI患者において肝臓に適応免疫を発動させるために,原因薬物がどのような経路を介してT細胞を活性化するに至るかは不明であった.他方,細胞から分泌される膜小胞のエクソソームは,核酸や脂質,タンパク質を内包して近傍または遠隔の標的細胞に情報を運び,近年様々な免疫応答の制御への関与が注目されている.
本稿では,エクソソームが,iDILI原因薬物修飾タンパク質を肝細胞から免疫系へ運び,薬物修飾抗原に特異的なT細胞応答を誘導して細胞間情報伝達において重要な役割を有する可能性を示したOgeseらの最近の研究成果を紹介する.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Kullak-Ublick G. A. et al., Gut, 66, 1154-1164(2017).
2) Robbins P. D., Morelli A. E., Nat. Rev. Immunol., 14, 195-208(2014).
3) Ogese M. O. et al., Hepatology, 70, 1732-1749(2019).

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© 2020 The Pharmaceutical Society of Japan
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