ファルマシア
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天然物のユニークなアトロプ異性:トリプトルビンAの全合成
蒔田 吉功
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2020 年 56 巻 10 号 p. 956

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抄録

薬と生体分子の関係が「鍵と鍵穴」に例えられるように,化合物(=鍵)の三次元構造は生物活性と密接に関わる.しかし多様な天然物の中には,その複雑な構造のために三次元構造の解析が困難な化合物も存在する.三次元構造の複雑さを生む1つの要因として,ビナフチル類の軸不斉に代表されるアトロプ異性が挙げられる.不斉中心が生み出す点不斉とは異なり,アトロプ異性は単結合の回転障害によって生じる立体異性である.放線菌由来化合物トリプトルビンAは,こうしたアトロプ異性を有する天然物である.本化合物はアリと共生する菌類より分離されたStreptomyces属放線菌が産生するヘキサペプチドで,特徴として,①Trp2のインドール環とTyr3およびTrp5との結合と,②Trp5のインドール窒素とアミノ基によるアミナール形成が挙げられる.これらの非ペプチド結合の存在により,本化合物は2個のマクロ環が縮合した興味深い構造を有している.本稿では,ReisbergらによるトリプトルビンAの全合成研究を紹介する.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Wyche T. P. et al., J. Am. Chem. Soc., 139, 12899-12902(2017).
2) Reisberg S. H. et al., Science, 367, 458-463(2020).

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© 2020 The Pharmaceutical Society of Japan
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