2021 年 57 巻 9 号 p. 861
2019年12月に中国武漢で発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行が続いている(2021年4月現在).
このような背景のなか,COVID-19に対するワクチンが開発され(COVID-19ワクチン),各国で接種が進められている.これまでワクチンは,生ワクチンや不活化ワクチン等が認可されてきたが,COVID-19ではmRNAワクチンやウイルスベクターワクチン等の遺伝子を用いたワクチンを中心に開発が進められてきている.
例えば,mRNAワクチンとは,新型コロナウイルスのスパイクタンパク質をコードするmRNAを,体内での分解を防ぐために脂質ナノ粒子で包みカプセル化したものである.ワクチン投与後はヒト細胞中に取り込まれたmRNAを鋳型としてスパイクタンパク質が生成され,免疫応答が誘導される.これらのワクチンは既存の生ワクチンや不活化ワクチンと異なりウイルス培養を必要としないため,従来型のワクチンと比較して迅速な開発と実用化が可能であり,2020年1月にゲノム配列が報告されてから1年足らずで実用化に至った.本稿では,Badenらが報告した2021年5月現在,モデルナと武田薬品工業が我が国で承認申請中のmRNAワクチンであるmRNA-1273の臨床試験結果を紹介する(注:本ワクチンは2021年5月21日に厚生労働省から特例承認を取得し,すでに接種が開始されている).
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Polack F. P. et al., N. Engl. J. Med., 383, 2603-2615(2020).
2) Baden L. R. et al., N. Engl. J. Med., 384, 403-416(2021).
3) Seki Y. et al., J. Infect. Chemother., 23, 615-620(2017).
4) Dagan N. et al., N. Engl. J. Med., 384, 1412-1423(2021).