ファルマシア
Online ISSN : 2189-7026
Print ISSN : 0014-8601
ISSN-L : 0014-8601
トピックス
母性行動を伝えるオキシトシン
皆川 貴美乃
著者情報
ジャーナル フリー

2022 年 58 巻 6 号 p. 607

詳細
抄録

生物には,生存のための本能的な能力が備わっている.その中でも母性行動は,子の生存に重要である.子に乳を与え,寄り添い,育てるといった母性行動には,視床下部から分泌されるオキシトシンが深く関わっている.マウスでは,巣から離れた仔を回収する(retrieving),仔をまとめる(grouping),仔をなめる(licking)などの母性行動が見られる.マウスの仔は巣から離れると鳴き声(超音波信号)を発するが,この遭難信号の認識は,生得的な調節機構と経験(学習)による可塑性機構の相互作用によって起こることが報告されている.育仔経験のない未交尾(virgin)雌マウスは,仔の遭難信号を無視するが,育仔経験豊富な母マウス(dam)と同居することでretrievingなどの母性行動を開始する.オキシトシンを介したretrievingの開始の加速と,仔の鳴き声を認識する聴覚神経の可塑性を促進する仕組みが明らかにされつつある.本稿では,マウスの母性学習における神経メカニズムにもオキシトシンが関与することが報告されたので紹介する.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Schiavo J. K. et al., Nature, 580, 426–431(2020).
2) Marlin B. J. et al., Nature, 520, 499–504(2015).
3) Carcea I. et al., Nature, 596, 553–557(2021).

著者関連情報
© 2022 The Pharmaceutical Society of Japan
前の記事 次の記事
feedback
Top