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環境汚染とヘモグロビン:植物による組換えヘモグロビン研究の最前線
橋口 拓勇
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2022 年 58 巻 6 号 p. 608

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抄録

生活排水や化学肥料に含まれるアンモニア態窒素は,土壌中で硝化菌により亜硝酸を経て硝酸態窒素に変化する.通常,硝酸態窒素は植物体の成長に必要不可欠であるが,その存在量が過剰になると地下水を汚染する原因となる.メトヘモグロビン(MHb)血症はヘモグロビン(Hb)が亜硝酸態窒素により酸化され,酸素と結合できないことで血液中の酸素が欠乏する病態である.特に,乳児が硝酸態窒素を摂取すると,MHbをHbへ還元するNADH-シトクロムb5還元酵素の活性が低いこと等からMHb血症になりやすい.対処が遅ければ窒息死に至る恐れがあるため,場合によっては交換輸血による治療が検討される.また,先進国における少子高齢化とともに血液の需要は高まっているが,ドナーの減少や適合性等の様々な問題があるため,輸血に頼らない治療法の開発が望まれている.そこで,Hbを利用した人工酸素運搬体(HBOC)の開発が進められており,交差適合性が広く,保存可能期間が長いHBOCは血液代用剤として期待されている.近年,ワクチン等の医薬品を植物体に作らせるための研究が活発に行われている.Kanagarajanらは,モデル植物のタバコNicotiana benthamianaを用いて機能的な組換え胎児ヘモグロビン(rfHbF)の大量生産に成功したので紹介する.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Alayash A. I. et al., Trends Biotechnol., 32, 177-185(2014).
2) Kanagarajan S. et al., Int. J. Biol. Macro., 184, 955-966(2021).

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© 2022 The Pharmaceutical Society of Japan
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