ラマン散乱分光を用いると,生理学的条件において周辺環境の影響を排除することなく生体分子を検出し,その構造を調べることができる.しかしながら通常の測定では,大多数を占める分子から平均化されたスペクトルが得られ,集団のなかに存在する少数分子からの信号を検出することは難しい.LiuとHuangらは,プラズモン光トラッピングを基にしたハイスループットの単一分子表面増強ラマン散乱(surface-enhanced Raman scattering: SERS)分光法を開発し,アミリン(膵島アミロイドポリペプチド)のアミロイド線維形成に関わる2種類の過渡種を検出することに成功したので,本稿で紹介する.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Fu W. et al., Nat. Commun., 14, 6996(2023).
) Ashkin A., Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A., 94, 4853-4860(1997).
3) Shoji T., Tsuboi Y., J. Phys. Chem. Lett., 5, 2957-2967(2014).