1982 年 38 巻 3 号 p. T131-T135
蛋白繊維に対する酸性染料の染着機構を解明するため,染色モデル系としての牛血清アルブミン(BSA)に対する塩酸,水酸化ナトリウムおよび酸性染料Orange II (ORII)の反応熱を40°Cにおいて測定した。得られた値を試剤濃度0に外挿したときの反応熱[-ΔHc→o]が有用であるので,この値を用いた。得られた[-ΔHc→o] (kcal/mol)は塩酸に対して-2.1,水酸化ナトリウムに対して8.6, ORIIに対してpH3で11.7, pH11で4.8であった。これらの値から推定すると, BSAと塩酸との反応ではBSA中のカルボキシルアニオンへのプロトンの付加熱が,水酸化ナトリウムとの反応では水の生成を伴なう中和熱が[-ΔHc→o]に大きく寄与している。また, ORIIとの反応ではプロトン化したアミノ基とORIIアニオンのイオン結合のほかにORII分子中の水酸基,アゾ基または芳香環とBSA分子中のアミノ基,カルボキシル基または水酸基との水素結合も生じていると考えられる。