繊維学会誌
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酸性染料,分散染料およびそれらのモデル化合物の分子寸法と水中の拡散係数との関係
渋沢 崇男
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1987 年 43 巻 8 号 p. 401-415

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抄録

染料の水中の拡散係数(D)をその分子寸法から正確に推定する簡単な方法を見出すため,各種の酸性染料,非イオンアゾ染料,スルフォン酸,カルボン酸,アルコール,糖,アミド,尿素,シクロアルカンおよびベンゼン誘導体についてDと分子寸法との関係を調べた。分子寸法として,沸点分子容(Vb),ファンデルワールス容積(Vw)および水中の極限分子容(V°)を用いて検討した結果,次のことが分った。
1)一連の同族体化合物について, logVbまたはlog Vwとlog (T/Dη)をプロットすると良い直線になった(T;絶対温度, η;水の粘度, cP)。従って,このプロットの回帰直線式を用いると,その同族体に属する分子のDをかなり正確に推定出来る。
2) Dは分子寸法と分子の水の構造に与える影響の両者によって決まる。カルボキシレートアニオン(R-COO-)は,その近傍の水の構造性を増加させるので,解離したカルボン酸類のDは分子寸法に比べて小さい。一方,スルフォン酸アニオン(R-SO-3)は水構造破壊子として働くので,この基を持つ酸性染料などのDは分子寸法に比べて大きい。
それらの〓能基のDに及ぼす効果は分子の疎水部分が小さいとき,拡散温度が低い時に顕著である。
3)染料およびそのモデル化合物では分子寸法が小さく,また溶質の近傍の水の局所的な構造にさまざまな影響を与えるので, Stokes-Einstein式は適用出来ない。

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