水産工学
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これからの漁業はどうあるべきか
池田 八郎
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2002 年 38 巻 3 号 p. 259-267

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抄録

日本の漁船漁業の技術は,かつての大手漁業会社といえども生産性,効率性,収益性,安全性,国際競争力,責任ある漁業の何れの点をとっても,今の欧米の技術には太刀打ち出来ない。このことについては,拙著「世界の漁業でなにが起きているのか。-日本漁業再生の条件」で指摘した。しかし,大きく遅れをとっているのは技術だけではない。漁業科学分野も同様なことが言える。 Fisheries Scienceは大気理論(気象学,気候学),海洋学,海洋生物学を統合した科学で,私の知るところでは,日本には存在していないのではないか。欧米では先駆者イギリスのカツシングのあと10数人がこれに続き,飛躍的に進歩している。簡単に説明すれば,光合成で生ずる植物プランクトンや卵稚魚は,遊泳力を持たないので,これらの行動は大気と海洋(主として海洋)の流れに従うことになる。小動物がこれらを捕食し,大きな魚類等が小動物を追い求めることになる。従って,大気と海洋の構造と変化を知ることにより,海中生物の資源状態を把握出来るようになる。また海洋も大気と同じように,低気圧,高気圧,前線(フロント)があり,陸上植物と同じように,冷害,干ばつ,淡水等の被害が発生する。勿論,天気予報(大気)と同じように,非線型のカオス理論に従うことになるので,数値計算によって正確に予測出来るものではないが,例えば,マイワシがなぜ激減したのか等は,これらの理論によって解明出来てくる。日進月歩しているのは医学や先端技術だけではない。私達の関係する漁業科学分野も大きく進歩してきている。何れにしても,科学技術は中断すれば取り返しのつかない事態に陥って行く。日本の漁業界,水産業界はそのような状態にある。 Aquacultureにしても漁船漁業が崩壊すれば飼料が調達出来なくなり,連鎖崩壊することは自明の理。漁業という産業は経験と勘と伝承による特殊な産業と日本では認識されがちであるがそうではない。技術と科学に立脚した産 業という考え方に立ち,数100年の歴史のある欧米に学び,原点に立ち返って取り組んでいく時期に来ている。

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© 2002 日本水産工学会
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