2024 年 74 巻 3 号 p. 67-71
要旨: 症例は 73歳男性。膵尾部腫瘤に対し経胃的に超音波内視鏡下穿刺吸引(EUS-FNA)が施行され,病理組織学的に腺癌の診断となった。術前化学療法の後に膵体尾部切除術が施行され,最終病理診断は浸潤性膵管癌, pT3N0M0であった。その後経過観察されていたが CA19-9の上昇を認め(38.7 U/mL),CTで胃壁の肥厚が出現した。FDG-PET CTが施行され,胃壁に SUVmax 10.1の集積を認めた .そこで,上部消化管内視鏡検査を施行され,胃体上部から体中部小弯後壁に径 20 mmの粘膜下病変が認められた。生検結果で膵癌の組織と同様の腺癌であり,穿刺経路腫瘍細胞播種(needle tract seeding : NTS)による胃壁への膵癌再発の診断となった。 EUS-FNAでの胃壁穿刺部が手術後も残る膵体部癌・膵尾部癌では,穿刺部位への再発がないか慎重な経過観察が必要である。
Abstract : A 73-years-old male underwent transgastric Endoscopic ultrasound-guided fine-needle aspiration (EUS-FNA) for a pancreatic tail tumor. Histopathological examination evaluated the tumor as adenocarcinoma. The patient received preoperative chemotherapy and subsequently underwent distal pancreatectomy. Final pathological diagnosis was invasive pancreatic ductal carcinoma, staged as pT3N0M0. Follow-up evaluations showed increases in CA19-9 to 38.7 U/mL and thickening of the gastric wall on computed tomography (CT) images. Further investigation with 18F-fluorodeoxyglucose positron emission tomography CT(FDG-PET CT)showed a maximum standardized uptake value(SUVmax) of 10.1 in the thickening gastric wall. Upper gastrointestinal endoscopy identified a 20 mm submucosal lesion extending from the upper part of the stomach to the posterior wall of the lesser curvature in the middle part of the stomach. A biopsy of the lesion showed adenocarcinoma, which is consistent with gastric wall recurrence of pancreatic cancer due to needle tract seeding. It is important to carefully observe patients with pancreatic body and tail cancer who have undergone EUS-FNA and have residual puncture sites after surgery to detect recurrence at the puncture site.
超音波内視鏡下穿刺吸引法(endoscopic ultrasound-guided fine-needle aspiration : EUS-FNA)は,膵癌の診断に有用で,かつ安全に施行可能である。一方,消化管壁を通じて検体採取を行うため,穿刺経路に穿刺経路腫瘍細胞播種(needle tract seeding : NTS)を生じる可能性がある。
膵尾部癌への EUS-FNA施行後に NTSによる胃壁再発が疑われた 1例を経験したため報告する。
症例 : 73歳男性
主訴 :特になし
既往歴 :高血圧
現病歴 : 2019年 7月上腹部痛があり前医を受診し,CTで膵尾部に腫瘤を指摘された。同腫瘤に対し経胃的に EUS-FNAが施行され,病理組織学的に腺癌の診断となった。同年 8月手術目的に当院紹介となった。術前化学放射線療法(GEM 800 mg/m2 3コース, RT 54.0 Gy)の後で,同年 12月に膵体尾部切除術が施行された。最終病理診断は浸潤性膵管癌,高分化型腺癌, pT3N0M0,膵後方組織浸潤陽性,リンパ管侵襲陰性,静脈侵襲中等度陽性,神経周囲侵襲軽度陽性,切除断端陰性であり,術前化学放射線療法の治療効果は Grade 1bであった。術後補助療法(S-1 120 mg/body 4コース)を施行され,その後は CTや腫瘍マーカーの測定で経過観察されていた。2021年 6月 CA19-9が 38.7 U/mLと上昇を認め,翌月再検で 59.3 U/mLと経時的な上昇を認めた。再発が疑われ精査となった。
血液検査所見 :血算,生化学検査に特記すべき変化は認めなかった。腫瘍マーカーは CA19-9が 59.3 U/mLと上昇あり,CEAは正常範囲であった。
造影 CT :胃小弯側に 16 mm×30 mmの壁肥厚が見られた(Fig. 1)。均一な造影効果を示していたが,平衡相のみの評価であり病変部位の由来が粘膜か粘膜下かは明らかではなかった。また,小弯側壁外に淡い濃度上昇があり,病変が漿膜下まで及んでいる可能性が考えられた。以上より,粘膜由来の病変として胃癌などの原発性悪性腫瘍,粘膜下病変として GISTが疑われたが,既往から膵癌の胃壁内再発も考えられた。
FDG-PET CT :胃小弯側に壁肥厚があり,同部に SUVmax 10.1の集積を認めた(Fig. 2)。他部位に異常集積は認めなかった。
上部消化管内視鏡検査 :胃体上部から体中部の小弯後壁に,径 20 mmの隆起性病変を認めた(Fig. 3a, 3b)。粘膜上皮には不整がなく,病変は粘膜下層以深の由来であることが示唆された。
超音波内視鏡検査 :病変は内部不均一な低エコー腫瘤で,腫瘍エコーは粘膜下層から筋層以深まで及んでいた(Fig. 4)。
病理組織所見 :胃病変に対して生検が施行された。粘膜固有層・粘膜筋板内で,不規則な分岐を示す不整形の管状腺管が増生・浸潤していた(Fig. 5a)。腺管上皮は円柱状で,極性の乱れを伴う細胞重積を認め,核腫大・核の大小不同などの異型を示していた(Fig. 5b)。腺癌と診断され,既往の浸潤性膵管癌(高分化型腺癌)(Fig. 5c)と形態的によく類似しており,膵癌の胃壁再発として矛盾しないと考えられた。
以上より, EUS-FNA穿刺部への NTSによる再発と診断された。画像所見上は他臓器への明らかな転移は確認されず,手術の方針となった。
手術所見 :同年 9月に噴門側胃切除術が予定されたが,開腹したところ肝外側区域・大網に結節が認められ,術中迅速病理で腺癌の診断であった。したがって,胃転移及び肝転移・腹膜播種の診断となったことから,試験開腹術のみで手術は終了となった。



a : 見下ろし像
b : 胃内反転像
胃体上部から体中部小弯後壁に径20 mm の隆起性病変を認める.粘膜上皮には不整がなく,病変は粘膜下層以深の由来であることが示唆される.


a : 胃粘膜下腫瘍 HE 染色×10。 粘膜固有層の正常胃腺管や粘膜筋板に分け入るように,不整形の管状腺管を形成する腺癌が増生・浸潤している。
b : 胃粘膜下腫瘍 HE 染色×40。 細胞極性の乱れや核形不整などの異型を示す円柱状の腺癌細胞が増殖している。
c : 既往の膵癌 HE 染色×40。 不整形の管状腺管が増生・浸潤している。 腺管上皮は円柱状で,極性の乱れを伴う細胞重積を認め,核腫大・核の大小不同などの異型を示している。 浸潤性膵管癌(高分化型腺癌)の像であり,Fig. 5b と類似した形態であることから,胃病変の原発巣と考えられる。
膵癌に対する EUS-FNAは,感度 85%,特異度 98%と診断能が高い1)。合併症は出血や膵炎,手技後の疼痛などが挙げられるものの,その発症率は 2.5%程度との報告がある2)。診断成績が良好で,かつ比較的安全に実施可能な点からも有用な検査と考えられている。しかし,近年, EUS-FNA後の NTSの報告が日本でも蓄積されつつある3)。
NTSとは,経皮的針生検や EUS-FNA施行時に針の通過経路に腫瘍細胞を認める現象である。穿刺経路が短いことや生検針が細いことなどの理由から,EUS-FNAは経皮的針生検に比べ腹膜播種の危険性は低いと言われている4)。いくつか報告はあるが,膵癌での経皮的針生検後の播種は 16%程度と言われている4)。一方, EUS-FNA後の播種は 2.2-3.4%と報告されており,経皮的針生検に比べ低いと考えられる4)。
膵癌術前の EUS-FNAの有無で腹膜播種のリスクの有意な上昇はなく,長期予後は変わらないとの報告もある5)。しかし,膵頭部癌が十二指腸から穿刺し膵頭十二指腸切除術により穿刺経路も切除されるのに対し,膵体尾部癌は胃壁から穿刺し穿刺部の胃壁は切除範囲に含まれない。そのため,穿刺経路が切除されていない場合には,経過観察の際に穿刺経路への再発に注意する必要がある。 NTSのリスクを考慮して EUS-FNA必要症例を検討するべきとの議論もある6)。本症例のように術前や術後に化学療法を施行していたが NTSをきたした症例も複数の文献で報告されており6),化学療法での NTS予防には限界があると考えられる。そのため, EUS-FNAではなく膵管生検や膵液細胞診を選択することや,経胃的に穿刺した場合には手術の際に穿刺部も切除するなど,症例に応じて NTSを回避する方法を検討することも重要である。
NTSの再発機序としては,穿刺部に一致して再発している点から穿刺部の修復過程で癌細胞が組織に生着して再発すると考えられている7)。したがって,NTSによる胃壁再発に対する治療法としては,再発が穿刺部に限局している場合には部分切除が有効と考える。実際に NTS病変の外科的切除を施行した患者の生存期間は,切除を受けなかった患者よりも有意に長かったとの報告がある3)。そのため,胃壁再発の早期発見により早期治療介入のきっかけとなり,長期予後の改善につながる可能性があると考える。しかし,胃壁内の再発において自覚症状がない症例も多く,また, CTでの経過観察では病変の指摘が困難な症例も多い8)。本症例でも自覚症状はなく,再発診断のきっかけとなる所見は手術から 1年半後に認められた腫瘍マーカー上昇のみであった。後方視的には CTで胃壁の肥厚を認めたが, CTのみでは診断には至らず FDG-PET CTを施行したところ壁内への集積を認め診断に至った。本症例の胃壁の病変は, NTSのほか,原発性胃癌や粘膜下病変,膵癌の胃壁転移が鑑別に挙げられた.本症例を NTSによる再発と判断した理由としては,膵癌で血行性の胃転移は極めて稀であること,胃壁穿刺部は切除されておらず穿刺部と再発部が近接すること,組織学的な類似性があることから総合的に判断した。腫瘍全般の胃転移は 0.2~ 5.4%と低く、膵臓癌の転移となるとさらに臨床で遭遇する確率は低い。 209人の膵臓癌患者に対して行われた解剖で胃転移を認めたのは 2例(0.96%)との報告もある 9)。日本での調査で,経胃的に EUS-FNAを受けた患者,かつ外科的膵切除を受けた症例( 4,435人)の中で NTSを発症した確率は 0.86%との報告があり3),症例数に差がある中での検討にはなるが胃転移・ NTSの発症確率に大きな差はないと考えられる。そのため胃転移の完全な否定はできないものの,稀な胃転移が穿刺部に近接して起こる確率より NTSの確率が高いと本症例では総合的に判断した。
NTSの早期発見のためには, CTでの経過観察の際に穿刺部位の肥厚や腫瘤性病変の出現を注意深く観察することや,定期的に上部消化管内視鏡検査を組み込むことが必要と考える。しかし,必ずしも病変の指摘に至るとは限らず,壁内の異常集積が認めやすい FDG-PET CTを適宜施行することも再発の早期発見につながると考えられる。本症例についても,EUS-FNA施行後であり NTSのリスクがあることを認識していれば画像診断で早期に発見できた可能性があり,今後は NTSを念頭に置くという教訓を得た症例であった。
EUS-FNAの 2年後に,胃壁への NTSを来した膵癌症例を経験した。 NTSをきたす可能性がある症例では,膵癌の術後に CTや上部消化管内視鏡検査で穿刺部を確認するとともに, FDG-PET CTも適宜施行することで早期発見に繋がる可能性がある。