1989 年 30 巻 2 号 p. 29-35
ニトロブルーテトラゾリウム(NBT)による脱水素酵素活性可視化法を酵素学習に取り入れる試みの一つとして、細胞内小器官の一つであるミトコンドリアを封じ込めたポリアクリルアミドゲル(PAAG)フィルムの活用を提案した。このフィルムは、その調製時に細胞内小器官や細胞そのものをその中に封じ込めることにより活性染色中における目的物質の染色反応溶液の遊離や封じ込められたものの形態の破壊が防止できるという利点を有している。本論文では、PAAGフィルムを用いて酵素の一般的性質を示すと同時に、細胞内小器官と酵素の関連性について生徒の理解を深めるということを企図した。そのため、細胞内小器官としてミトコンドリアを取り上げ、ラット肝臓より分画遠心法により調製したミトコンドリアをPAAGフィルムに封じ込め、その標識酵素の一つであるコハク酸脱水素酵素活性を可視化するときの反応条件やPAAGフィルムの保存条件などについて検討した。ここで決定したもっとも適当と思われる条件を使って、酵素の一般的な性質を示すための演示実験をおこなってみた。これらの結果は、教科書的な酵素の基本的性質を示すのにPAAGフィルムが有効であることを示した。光学顕微鏡による染色されたフィルムの観察は、細胞内小器官と酵素の関連性の把握に重要である。実際にフィルムを観察してみると、ミトコンドリアは濃青色に染色された長さ約1μmの粒子として認められた。しかし、その他に非特異的な反応により染色されたものと思われるものもかなり多く認められた。このような状態では、生徒によるミトコンドリアの同定にやや困難があるのではないかと考えられる。今後この点について改良していかなければならないと考えている。