1990 年 31 巻 1 号 p. 21-28
一般に、巨視的時間概念は理解が困難であることが知られている。この巨視的時間の理解を困難にする原因には2つの可能性が考えられる。一つは、100万や10億といった大きな数を扱うためである。もう一つは、年という比較的長期の時間が単位になっているからである。もし、前者が原因であるならば、天文での「光年」等の利用のように、単位変換によって扱う数を小さくすることが、生徒への提示方法として有効である。もし、後者が原因であるならば、「年」とは異なった言葉を使うことが、生徒への提示方法として有効である。本研究では、被験者に一組の数を提示した。数字、金額、年の3タイプの数を使った。被険者に大小の比較をさせた。そして、大小比較にかかる反応時間を測定した。測定値はタイプ及び大きさごとに分析された。その結果、理解困難の原因は数のタイプに起因することが明らかにされた。言い替えれば、「十億年」が認知しがたいのはそれが時間を表現しているためで、「十億」という数字それ自体ではなかった。この結果から、巨視的時間の学習の初期に、お金を用いて巨視的時間を表現する方法を提案した。具体的には、1円玉、5円玉、10円玉、50円玉をもちいて生徒の経験した事件や、親や祖父・祖母の人生を表現する。また、人間文明の歴史を100円玉や500円玉や1000円札で表現する。人類の歴史を一万円札や新聞紙等を間にはさんだ100万円の札束で表現する。中年代、古生代ならば、札束の詰まったトランクで表現する。この様な具体物で学習の初期に、巨視的時問を提示することが有効であると思われる。