1990 年 31 巻 1 号 p. 29-38
児童の感性と理科学習の関係には、二つの側面があると考えられる。一つは理科学習への感性の利用であり、もう一つは理科学習における感性の研磨である。特に後者は人間形成の観点からみても非常に重要である。そこで感性の研磨という視点を持った理科学習の実践を試行してそのあり方を探るとともに、併せて小学校理科のA区分、特に「植物どうしの関係」や、「季節と生きもののようす」など、児童の感性が重要な働きをすると思われる単元に関する学習の改善を目指した。このために、まず児童の身近な自然についての関心の度合や、彼らの植物についての認識の概要を調べるとともに、身近な自然を対象とした学習を展開するにあたって教論が改善したいと思っている点の抽出に努めた。これらの結果、児童は身近な自然に親近感を抱いてそれらを観察していること、教論の身のまわりの自然についての知識不足が、それらを取り入れた学習を展開するにあたっての大きな障害になっていることなどがわかった。そこでまず身のまわりの植物に関する事前調査方法を改善し、次に直接経験に支えられた児童の「気付き」を学習活動の柱とした、「植物どうしの関係」の授業を行うことによって研究目標の達成を図った。この過程で次のことがわかった。①身近な植物についての教材研究を行う際に、植物生態学の手法を加えて調査並ぴに標本整理をすれば、学習時の教授活動や児童の自主的活動に役立つこと。②直接経験に支えられた児童の「気付き」は学習内容を充分に含んだものが多く、それらを単元展開の柱にすれば学習目標の達成が容易であること。③感性の研磨は常にそれを使うことによってなされるものであり、その発表の場を理科学習の時間に限らず保証していく必要があること。