日本薬理学雑誌
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テーシス
NMDA受容体GluRε1サブユニット欠損マウスにおける神経機能解析
宮本 嘉明鍋島 俊隆
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2002 年 119 巻 6 号 p. 327-335

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抄録

NMDA型グルタミン酸受容体は,中枢神経系における興奮性シナプス伝達,シナプス可塑性,神経発達および神経変性など種々の神経活動において,重要な役割を担っている.NMDA受容体は,高いCa2+透過性を有したイオンチャネルを内蔵しており,GluRζ1(NR1)サブユニットおよび4種類のGluRε1-4(NR2A-D)サブユニットによってヘテロ複合体として形成されている.標的遺伝子改変法によりGluRε1サブユニットを欠損させたマウスでは,海馬CA1領域でのNMDA受容体依存性シナプス電流や長期増強(LTP)の誘導,前脳での非競合的NMDA受容体アンタゴニスト[3H]MK-801の特異的結合量およびNMDA受容体を介する45Ca2+取り込み量が低下しており,NMDA受容体の機能低下を示した.GluRε1欠損マウスの前頭皮質および線条体においては,ドパミンおよびセロトニンの代謝回転の亢進が観察され,ドパミンおよびセロトニン作動性神経系の機能亢進を示した.この線条体におけるドパミン作動性神経系の機能亢進は,NMDA受容体の機能低下によって,ドパミン作動性神経系に対するGABA作動性神経系の抑制機能が低下することが原因であった.また,GluRε1欠損マウスでは,ドパミン作動性神経系の機能亢進による新奇環境下での運動過多が観察された.さらに,モーリス水迷路試験,恐怖条件付け試験および水探索試験において,それぞれ空間,文脈および潜在学習などの記憶·学習機能の低下が観察された.以上のことから,NMDA受容体がグルタミン酸作動性神経系のみならず,間接的にGABA作動性神経系やドパミン作動性神経系を調節することによって,各種の行動変化をもたらすことが示唆された.また,GluRε1欠損マウスが,NMDA受容体の機能低下とドパミン作動性神経系の機能亢進に関連する精神分裂病の新たなモデル動物となりえることが示唆された.

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