日本薬理学雑誌
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ミニ総説号「Heat Shock Protein (HSP) の薬理学への応用:創薬への可能性」
分子シャペロンHSP90をターゲットとする抗癌薬の開発と作用機序
宮田 愛彦
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2003 年 121 巻 1 号 p. 33-42

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抄録

HSP90は主要な細胞内分子シャペロンの一つであり,細胞ストレス状況下で発現量が増大するが,通常でも細胞質にもっとも多く存在するタンパク質の一つである.HSP90は様々な細胞内タンパク質と相互作用してその正確なフォルディングと機能を保証する役割を持つ.HSP90と相互作用するクライアントタンパク質にはプロテインキナーゼやステロイドホルモン受容体等の細胞増殖や分化に重要な役割を果たすシグナル伝達分子が多く含まれる.HSP90はCdc37やFKBP52といった他の分子シャペロンと協調しながら,クライアントタンパク質が正しくシグナルに応答して機能する為に必須の因子としてATP依存的に働いている.ゲルダナマイシンはHSP90のATP-bindingポケットに結合してそのシャペロン機能を抑制する特異的な阻害薬であり,HSP90依存性のクライアントタンパク質の不活性化·不安定化と分解を引き起こす.HSP90のクライアントタンパク質には細胞周期·細胞死や細胞の生存·癌化に関わる機能タンパク質が多く含まれ,ゲルダナマイシン処理でHSP90を阻害すると培養癌細胞の増殖が抑制され,また実験動物での腫瘍縮小効果が観察される.ゲルダナマイシンはHSP90という単一のタンパク質に対する特異的な阻害薬でありながら,細胞周期·細胞分裂·細胞生存シグナル·アポトーシス·ステロイドホルモン作用·ストレス耐性などに関わる多面的なクライアント分子を同時に阻害できるという点で,これまでに無く広範でかつ効果的な抗癌作用を持つ薬剤となり得る.ゲルダナマイシンと同様のHSP90阻害効果を持ちながら腎·肝毒性を軽減した誘導体である17-allylaminogeldanamycin(17-AAG)は既にヒトに対するPhaseIの治験を経て,まもなく癌患者に対するPhaseIIの臨床試験が始められようとしている.

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© 2003 公益社団法人 日本薬理学会
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