日本薬理学雑誌
Online ISSN : 1347-8397
Print ISSN : 0015-5691
ISSN-L : 0015-5691
ミニ総説号「カルシウムチャネル研究の新たなる展開」
TRPチャネルを中心としたシグナル複合体形成と細胞の増殖·死の制御
西田 基宏原 雄二井上 隆司森 泰生
著者情報
ジャーナル フリー

2003 年 121 巻 4 号 p. 223-232

詳細
抄録

Ca2+はセカンドメッセンジャーとして,細胞の刺激応答にきわめて重要な役割を果たしている.通常,細胞内Ca2+濃度([Ca2+]i)は低く(≤ 100 nM)維持されているが,いったん刺激が加わると細胞外からのCa2+流入等を介して[Ca2+]iが上昇し,様々な酵素活性,転写活性が制御される.イノシトール代謝回転と連関した受容体の活性化を介して機能する受容体活性化カチオンチャネル(receptor-activated cation channel: RACC)は,ホルモンや増殖因子によって惹起されるCa2+流入を担う最も重要な経路の一つである.TRP(transient receptor potential)は,RACCの分子的実体として注目されていたが,最近では浸透圧,温度,酸化還元状態の変化など様々な外的要因にも応答し活性化されることもわかってきた.また,遺伝子欠損細胞などを用いた解析から,TRPチャネルは他の生体分子と機能的なシグナル複合体を形成し,自身のチャネル活性やCa2+流入によって惹起されるシグナル伝達を効率よく制御しており,増殖·分化や生存·死といった細胞応答を制御することが明らかになってきた.TRPは様々な病気の原因遺伝子としても考えられており,遺伝子改変動物や特異的な阻害薬開発を含めた今後の解析が期待される.

著者関連情報
© 2003 公益社団法人 日本薬理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top