日本薬理学雑誌
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新薬紹介総説
深在性真菌症治療薬ホスフルコナゾール(プロジフ®)静注液の非臨床試験および臨床試験成績
川上 裕梛野 健司新海 啓介祖父江 聡阿部 雅秋石河 醇一
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2004 年 124 巻 1 号 p. 41-51

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抄録

ホスフルコナゾール(プロジフ®)静注液は,英国ファイザー社中央研究所で見出されたフルコナゾール(ジフルカン®)をリン酸エステル化し,水溶性をさらに向上させたプロドラッグである.活性本体のフルコナゾールは,有効性と安全性に優れたアゾール系抗真菌薬であり,深在性真菌症の治療に広く使用されている.一方,重篤な真菌症の患者にフルコナゾール静注液を投与する場合には,体内の水分量や電解質量のバランスに注意する必要がある.また,フルコナゾールの高用量による治療や投与早期から有効な血中濃度を得ることができるローディングドーズ法も望まれており,これらを容易にする高濃度の静注液製剤の開発が期待された.ホスフルコナゾールはフルコナゾールに比べ,水溶性が高く,同等量のフルコナゾールを生体内で生成するのに要するホスフルコナゾール静注液の投与液量はフルコナゾール静注液の1/40となり,ボーラス投与が可能となった.ホスフルコナゾールはin vitroではCandida属およびCryptococcus neoformansに対し有意な抗真菌活性を示さなかったが,ラットの全身カンジダ症モデルおよび頭蓋内クリプトコッカス症モデルに対しては,フルコナゾールと同程度の有効性を示した.このことから,ホスフルコナゾールは生体内で速やかにフルコナゾールに変換されて,抗真菌活性を発揮するものと考えられる.ホスフルコナゾールは主にアルカリホスファターゼによって加水分解されることが確認されており,生体内ではほぼ完全にフルコナゾールに変換される.第I相試験の結果,ホスフルコナゾール投与後のフルコナゾールの薬物動態には見かけ上線形性が認められた.また,フルコナゾールでは血中濃度が定常状態に到達するまでの期間が6~10日間であったが,ホスフルコナゾールではローディングドーズすることにより,3日間に短縮化された.深在性真菌症患者を対象とした第III相試験では,ローディングドーズ法を採用し,ホスフルコナゾールの有効性および安全性について検討した.その結果,カンジダ属およびクリプトコッカス属による深在性真菌症(真菌血症,呼吸器真菌症,真菌腹膜炎,消化管真菌症,尿路真菌症,真菌髄膜炎)に対し,ホスフルコナゾールは有効であり,また臨床的に問題となる有害事象は認められなかった.深在性真菌症は重篤な感染症であり,早期の有効血中濃度の確保とこれによる治療が患者の予後には重要とされている.ローディングドーズ法を可能にしたホスフルコナゾールは深在性真菌症に新たな治療の選択枝を提供できると考えられる.

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© 2004 公益社団法人 日本薬理学会
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