日本薬理学雑誌
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ミニ総説:トランスポーター▼研究の最前線
創薬ターゲットとしてのABCタンパク質
小林 綾木村 泰久松尾 道憲植田 和光
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2005 年 125 巻 4 号 p. 185-193

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抄録

ABCタンパク質は,よく保存されたATP結合ドメインを1機能分子あたり2つもつ膜タンパク質ファミリーであり,バクテリアからヒトまで生物界に幅広く存在する.ヒトのもつ49種類のABCタンパク質は生理的に重要な役割を負っており,それぞれの遺伝子の異常がさまざまな疾病を引き起こす.特に,癌の薬剤耐性や,糖尿病,動脈硬化などの現代人にとって重大な疾患と関連しており,創薬のターゲットとして重要である.MDR1は幅広い構造の多種類の薬剤を結合し,ATP加水分解に依存して細胞や体内から排出する.MDR1は癌の多剤耐性だけでなく,多くの薬剤の小腸からの吸収性や体内動態と直接結びついており,薬剤の開発において重要である.糖尿病治療薬スルホニル尿素剤の受容体であるSURは,ATP感受性K+チャネルの制御サブユニットとして機能し,細胞内代謝状態の変化にともなって膜電位を調節し,膵β細胞からのインスリン分泌および虚血時の心筋細胞保護に重要な役割を果たしている.また最近,ABCA1やABCG5,ABCG8など多くのABCタンパク質が脂質恒常性維持に関与していることが明らかになりつつある.ABCA1はapoA-Iにコレステロールとリン脂質を受け渡し高密度リポタンパク質(HDL)を形成する過程に重要な役割を果たしている.しかし,そのメカニズムや翻訳後調節機構はいまだ未知であり,それらの解明がABCA1をターゲットとした脂質恒常性改善薬の開発には必須である.また,ABCG5やABCG8などのハーフサイズのABCタンパク質が,植物ステロールの吸収の抑制やHDL形成に関与していることが明らかになりつつある.脂質の動態の分子メカニズムの解明および脂質恒常性維持に関与するABCタンパク質をターゲットとした創薬はこれから佳境に入ろうとしている.

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© 2005 公益社団法人 日本薬理学会
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