日本薬理学雑誌
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ミニ総説:アレルギー性炎症治療戦略の最前線―基礎から臨床まで―
抗ヒスタミン薬に求められるもの
久保 伸夫
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2005 年 125 巻 5 号 p. 279-284

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抄録

国民の35%が抗体を持ち,その半数がすでに発症しているスギ・ヒノキ花粉症は日本の国土の15%以上を占めるスギ・ヒノキ森林による季節性疾患であり,早春のわが国の社会生活と生産活動に大きな影響を与え,最近は若年者の患者も急増している.しかし,致死的でなく花粉飛散が終われば軽快するため,疾患としての恐怖感はなく,毎年繰り返すやっかいな自然災害という国民意識が広がっており,各個人における費用対効果で対策が講じられている.抗ヒスタミン薬は花粉症に対する標準的治療薬であるが,抗ヒスタミン薬に社会が求めているものは,疾患の治癒ではなく,安価で即効的に副作用なく症状を制御し,服薬しながら社会活動を維持することである.また通常薬物を服用しない青壮年層に多い花粉症患者は用法や相互作用など投与上の制約への意識も乏しい.つまり,有効性より安全性が優先されるべき薬剤といえ,眠気や認知機能障害,相互作用の有無が臨床上最も問題になる.特に,中枢作用は生産効率のみならず自動車や鉄道,航空機の乗務員では人命に係わる副作用となるが,その出現には極めて個人差が大きく,その理由は不明である.一方,PETによる一連の研究で薬物間での中枢移行性の違いは客観的に評価されるようになってきた.今後はH1受容体やP糖タンパクなどのSNPなど中枢作用の個人差の検討が課題になると思われる.

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© 2005 公益社団法人 日本薬理学会
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