日本薬理学雑誌
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特集:漢方薬理学:基礎医学エビデンスから臨床効果まで
漢方薬の免疫薬理作用
―慢性疾患の改善作用の主要機序として―
川喜多 卓也
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2008 年 132 巻 5 号 p. 276-279

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抄録

漢方薬は様々なタイプに分類されるが,補中益気湯(ほちゅうえっきとう)や人参養栄湯(にんじんようえいとう)のような補益剤(ほえきざい)は,西洋薬には同種のものが存在しない,その一つの分類である.補益剤は貧血,食欲不振,疲労倦怠,慢性疾患による体力低下などを伴う患者に使用されている.補益剤は免疫薬理作用を有していて,種々の病態改善作用の主要なメカニズムと考えられている.制がん剤投与や放射線照射したマウスにおいて,補中益気湯や人参養栄湯は,造血幹細胞の増殖を促進して,白血球減少症を回復させる.人参養栄湯は血小板や赤血球系前駆細胞の回復も促進する.一方,補中益気湯は腸管上皮間リンパ球からのインターフェロンγ産生によりマクロファージを活性化して細菌感染からマウスを守る.また,ヘルパーT細胞タイプ2を誘導する免疫をしたマウスの抗原特異的イムノグロブリンEやインターロイキン4産生を抑制する.この効果がアトピー性皮膚炎治療の有効性の根拠になっている.人参養栄湯は自己免疫異常の調節効果で自己免疫マウスを著しく生存延長する.その他,補中益気湯ではストレス負荷や幼若マウスでの感染抵抗性低下の改善作用,人参養栄湯の肝線維化や間質性肺炎の改善作用なども示されている.以上の様に補益剤は免疫のアンバランスにより感染,アレルギー,自己免疫などになり易い状態を修正する効果がある.

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© 2008 公益社団法人 日本薬理学会
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