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日本薬理学雑誌
Vol. 142 (2013) No. 4 p. 150-155

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http://doi.org/10.1254/fpj.142.150

特集 新規がん治療薬の研究開発

近年のがん治療薬の主流である「分子標的薬」を「がん細胞の生存や増殖,転移と密接に関連する細胞内分子を狙い撃ちにする薬剤」であると定義するならば,ホルモン依存性がんにとってのホルモン療法は,いち早くその有効性が明らかにされた分子標的薬と言えるのかもしれない.たとえば前立腺がんは男性ステロイドホルモンであるアンドロゲン(テストステロンやジヒドロテストステロン:DHTなど)が前立腺がん細胞内のアンドロゲン受容体(androgen receptor:AR)を介して増殖を促進することから,現在,前立腺がん,とりわけ転移性または局所進行性前立腺がんに対しては性腺刺激ホルモン放出ホルモン(gonadotropin releasing hormone:GnRH)誘導体を用いたアンドロゲン低下療法(androgen deprivation therapy:ADT,薬物的去勢療法とも呼ばれる)が主流である.歴史をさかのぼれば去勢療法は1941年にHugginsらによって提唱され,その有用性が後世に認められた結果Hugginsは1966年にノーベル医学生理学賞を受賞している.それから70年以上ホルモン療法は前立腺がん治療の中心となり続けているが,その間に生体内におけるホルモン分泌,生合成,分子機能に関する理解は驚くほど進んできた.ヒトの場合,男性における性ホルモン合成は大別して①視床下部・下垂体・性腺系(Hypothalamic-Pituitary-Gonadal axis:HPG-axis),②視床下部 ・下垂体 ・副腎系(Hypothalamic-Pituitary-Adrenal axis:HPA-axis)によって合成され,全身のアンドロゲンのうち95%はHPG-axisによって,残りの5%がHPA-axisによって産生されると言われている.①に由来する創薬ターゲットとしては上述したGnRHの他に,最近我々を含めた複数の研究者によってGnRHの上流で作用することが見出された神経ペプチド,kisspeptinを挙げることができる.主に②に関係する創薬ターゲットとしては副腎におけるアンドロゲン(デヒドロエピアンドロステロン:DHEA)合成の鍵酵素である17,20-リアーゼ阻害薬が挙げられる.また,①,②それぞれの経路で産生されるアンドロゲンが作用するアンドロゲン受容体(AR)も重要な創薬ターゲットの一つである.これら新しい創薬ターゲットのうち,本稿では主にHPG-axisとkisspeptinとの関係を中心に,ホルモンを基軸とした創薬研究について歴史を紐解きながら概説する.

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