日本薬理学雑誌
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急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の病態解明と新しい治療への薬理学的アプローチ
『ウイルス感染と急性肺傷害』 インフルエンザウイルスの病原性発現とARDS
今井 由美子
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2015 年 145 巻 3 号 p. 117-121

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抄録

H5N1鳥インフルエンザウイルスをはじめとした強毒型のインフルエンザウイルスがヒトに急性呼吸窮迫症候群(ARDS)や多臓器不全といった致死的病態を引き起こすが,重症化したインフルエンザに対する有効な治療法は未だ開発されていない.私達は,脂肪酸代謝物のライブラーを用いたスクリーニングと質量分析法による脂肪酸代謝物のリピドミクス解析を通して,ドコサヘキサエン酸由来の代謝物がウイルスRNAの核外輸送を抑制することによって,インフルエンザウイルスの増殖を抑えることを見出した.同代謝物の産生量とウイルスの病原性には負の相関が認められた.また,同代謝物は予防的に投与しても,これまで救命の難かった感染48時間後に投与しても,重症インフルエンザマウスの生存率を改善させ,ARDSの重症化を阻止することがわかった.これらの知見から,宿主の脂肪酸代謝経路ならびに代謝物はインフルエンザ重症化のバイオマーカーとして,また治療標的としての可能性を有していることが示唆された.

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