呉茱萸は,ゴシュユEuodia ruticarpa(ミカン科)の未成熟果実で,本草的分類における性味は「辛熱」,冷え性や冷えに伴う痛みや吐き気に適用する漢方処方用薬である.一方,transient receptor potential vanilloid type 1(TRPV1)は熱や酸,辛味物質に対する侵害受容器である.漢方は体性感覚を重視し,表裏,寒熱,虚実,陰陽などによる八綱弁証,四気(寒涼温熱平)や五味(酸苦甘辛鹹)などの生薬の性味による分類など,味覚や皮膚感覚と関連が深い分類法があるが,その分類意義は充分に解明されていない.一方,TRPV1は熱や酸,辛味物質に対する侵害受容器である.本研究では,痛覚や辛味,43°C以上の侵害性の熱の受容に関連するイオンチャネル型受容体TRPV1に着目して研究を進めている.これまでの研究で,呉茱萸アルカロイドのエボジアミンは,非バニロイド化合物であるが,漢方用生薬中では最強のTRPV1活性化能を示し,呉茱萸配合漢方薬も明確な活性を示すことを見出した.エボジアミンはin vitroでは気管支拡張作用,強心作用,腸管収縮,血管弛緩作用等を,in vivoでは末梢循環改善や肥満防止,鎮痛作用等を示した.これらの作用と,呉茱萸配合漢方処方の薬能,適応について考察する.