日本薬理学雑誌
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新薬紹介総説
新規甲状腺がん治療薬レンバチニブメシル酸塩(レンビマカプセル)の非臨床研究と臨床試験成績
鶴岡 明彦松井 順二鈴木 拓也小山 則行渡辺 達夫船橋 泰博
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2015 年 146 巻 5 号 p. 283-290

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抄録

レンバチニブメシル酸塩は,経口投与可能な受容体チロシンキナーゼ阻害薬であり,腫瘍の血管新生に関わる血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)1~3,線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)1~4およびRearranged During Transfectionがん原遺伝子(RET)のチロシンキナーゼ活性を阻害する.In vitro血管新生モデルではVEGFおよびFGF誘導の血管新生を阻害し,様々なヒトがん細胞を移植したマウスモデルにおいて投与量依存的な抗腫瘍効果を示した.特にFGFRやRETに遺伝子変異を有する甲状腺がん細胞に対して強い抗腫瘍効果が認められたことから,レンバチニブは,VEGFR,FGFRによる血管新生と,FGFR,RETによるがん細胞の異常増殖の両方を阻害することで,強い抗腫瘍効果を発揮することが示唆された.臨床第Ⅰ相試験では甲状腺がん,子宮内膜がん,メラノーマ,腎細胞がん,軟部肉腫,結腸がん,卵巣がん,膵臓がんにおいて腫瘍縮小効果が認められ,主な毒性は高血圧,タンパク尿,疲労であった.放射性ヨウ素治療抵抗性・難治性の甲状腺分化がん(RR-DTC)および,甲状腺髄様がん(MTC)を対象とした第Ⅱ相試験において高い有効性が確認され,奏効率はそれぞれ50%,36%であった.この結果を受け,RR-DTC患者を対象にした第Ⅲ相試験(SELECT試験)が日本を含む21ヵ国で実施され,主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)は,プラセボ群の3.6ヵ月に対しレンバチニブ群で18.3ヵ月であり,有意なPFS延長が証明された.さらに本邦で実施された第Ⅱ相試験では,RR-DTCとMTCに加え,難治性で予後不良の甲状腺未分化がんに対してもレンバチニブの有効性が確認されている.その結果本年3月に,本邦にて「根治切除不能な甲状腺癌」を適応症として承認された.現在,肝がん,腎がん,肺がんを対象にした試験も進行中であり,治療薬の限られたがん患者に希望をもたらす新薬になると期待される.

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