2型糖尿病患者の数は世界的に増加の一途を辿っている.特にアジア人は膵β細胞が脆弱であり,インスリン分泌不全やβ細胞量の減少などによるβ細胞機能の低下が2型糖尿病の発症の主因となる.すなわち,インスリン分泌不全やβ細胞量減少を抑止することは,特にアジア人の2型糖尿病治療において非常に有効な手段となる.ポリメトキシフラボノイドであるノビレチンは柑橘類果皮に含まれ,抗肥満効果やインスリン抵抗性改善効果等の2型糖尿病改善効果を示すことから,近年,研究が盛んに行われている.著者らは,ノビレチンがβ細胞に対しても効果を示す可能性を検証した.膵β細胞株INS-1を用いた検討により,ノビレチンが濃度依存的にグルコース誘発インスリン分泌を促進すること,およびタプシガルギンにより誘発されるcaspase-3およびJNKの活性化を抑制し,抗アポトーシス作用を示すこと,さらに,インスリン分泌促進作用はEpac阻害薬,抗アポトーシス作用はプロテインキナーゼA阻害薬によりそれぞれ抑制されることが示された.一方,肥満2型糖尿病モデルdb/dbマウスへのノビレチンの2週間持続投与により,経口糖負荷試験における耐糖能が改善すること,また,db/dbマウスで認められるβ細胞量の減少が有意に抑制されることも示された.以上より,ノビレチンは細胞内cAMPレベルを上昇させることによるインスリン分泌促進作用および抗アポトーシス作用を有しており,こうしたβ細胞機能の改善がノビレチンの2型糖尿病改善効果の一因であると考えられる.また,ノビレチンの血中濃度を一定に維持することで,β細胞量が保持され血糖改善効果が認められたことから,ノビレチンはβ細胞に対し保護的に働き,糖尿病の進行を抑制する効果を有する食品成分としての可能性を有する.本稿では,柑橘フラボノイドのβ細胞に対する効果に関する最新の知見について紹介する.