日本薬理学雑誌
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特集:理想的な疼痛コントロールを目指す―オピオイド鎮痛薬の概念を変える最新知見―
MOPr-DOPrヘテロ二量体の疼痛制御における創薬標的としての可能性と意義
藤田 和歌子
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2021 年 156 巻 3 号 p. 134-138

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抄録

これまでの多くの研究により,オピオイド受容体が二量体を形成すると,その薬理学的特性が修飾されることがわかってきた.一例では,主作用に重要な G タンパク質シグナルから,副作用に関与するとされるβアレスチンシグナルへのスイッチングなどが知られる.本総説では,muオピオイド受容体とdeltaオピオイド受容体から成るヘテロ二量体(MOPr-DOPrヘテロ二量体)に注目し,その予測される構造,生体内での発現分布についてこれまでの知見に基づき紹介する.さらに,疼痛制御における役割について,MOPr-DOPrヘテロ二量体を標的とするリガンド(アゴニスト)の薬理作用を紹介しながら考察する.アゴニストとして,二価リガンド(MDAN21)や低分子化合物(CYM51010)などが報告されており,これらはモルヒネと同程度の鎮痛効果を有するとともに,モルヒネと比較して鎮痛耐性を形成しにくいことも明らかにされた.ヘテロ二量体を標的することが,副作用の少ない新規治療薬開発戦略の一つとして期待される.ところがその一方で,MOPr-DOPrヘテロ二量体は,副作用の一つであるモルヒネ鎮痛耐性形成に関与するとも報告されている.すなわち,モルヒネの反復投与によりこのヘテロ二量体が特定の脳領域で増加するが,このヘテロ二量体形成を阻害すると,モルヒネ鎮痛耐性形成は抑制される.メカニズム解析の結果,Gタンパク質共役型受容体運搬分子であるRTP4がモルヒネの反復投与により誘導され,MOPr-DOPrヘテロ二量体の形成量を増加させた結果,モルヒネ鎮痛耐性形成が誘導されると推察されている.本総説では,こうしたユニークな性質を有するMOPr-DOPrヘテロ二量体の薬理学的特性,アゴニストの薬理作用,鎮痛耐性形成との関わり,MOPr-DOPrヘテロ二量体の細胞内制御について,これまでの知見に基づき概説する.

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