2021 年 156 巻 3 号 p. 187-197
ロキサデュスタット(エベレンゾ®錠)は,経口投与可能な低酸素誘導因子-プロリン水酸化酵素(HIF-PH)阻害薬であり,日本では透析施行中の腎性貧血に対する治療薬として2019年9月に製造販売承認され,同年11月に販売開始された.ロキサデュスタットは,HIF-PHを阻害することにより,転写因子HIFのサブユニットであるHIF-αの分解を抑制して蓄積を促し,HIF経路を活性化させる.その結果,生体が低酸素状態に曝露された際に生じる赤血球造血反応と同様に,内因性のエリスロポエチン(EPO)産生が増加して赤血球産生を促進する.ロキサデュスタットは内因性のEPO産生のみならず,鉄の利用能も亢進することでも,効率的に赤血球産生を促進すると考えられる.ロキサデュスタットの薬理学的特徴を検討した非臨床薬理試験において,上記の作用機序を支持する試験結果が得られており,腎性貧血モデルラットや炎症性貧血モデルラットを用いた検討でロキサデュスタットの有効性が確認され,鉄利用能の亢進につながる遺伝子の発現変動も確認された.臨床試験では,透析施行中の腎性貧血患者を対象とした4つの国内第Ⅲ相臨床試験(血液透析3試験,腹膜透析1試験)において,ロキサデュスタットの有効性が明確に示された.ロキサデュスタットは良好な安全性プロファイルを示し,これら臨床試験で認められた有害事象や重篤な有害事象の発現割合および種類は,対象患者集団で発現が予想されるものと概ね一致していた.ロキサデュスタットは,経口剤であることから,赤血球造血刺激因子製剤で懸念される医療スタッフの針刺し事故による感染リスクの回避,患者の注射時疼痛の回避や来院負担軽減が可能となる新たな治療薬になると期待される.なお,今回紹介することはできなかったが,透析導入前の腎性貧血患者を対象とした臨床試験も実施され,2020年11月に腎性貧血に適応が拡大された.