日本薬理学雑誌
Online ISSN : 1347-8397
Print ISSN : 0015-5691
ISSN-L : 0015-5691
特集:小児疾患治療薬の新たな薬物標的の探索
小児特有の心筋細胞内Ca2+シグナル調節機構とその治療標的としての可能性
中村(西谷) 友重
著者情報
ジャーナル フリー

2021 年 156 巻 6 号 p. 346-350

詳細
抄録

細胞内カルシウム(Ca2+)は,心臓において筋収縮を導く興奮-収縮連関(ECカップリング)のカギとなる因子であり,また心肥大形成にも重要な役割を担っている.成体におけるECカップリングは,T管上にある電位依存性Ca2+チャネルおよび筋小胞体(SR:細胞内Ca2+貯蔵装置)からのCa2+放出を介したSR依存性の機構が詳細に明らかにされている.一方,胎仔期や幼少期などの心臓ではT管やSRの構造が成体と較べはるかに未発達であり,また種々のCa2+制御タンパク質の発現パターンが異なることから,ECカップリングの機構が成体とは異なると考えられてきた.しかし,その詳細な分子機構の全貌は明らかでない.今回,私たちは神経系で重要な役割を担うEFハンドCa2+結合タンパク質NCS-1(neuronal Ca2+ sensor-1)が幼少期のCa2+シグナル調節に重要な役割を担うことを見出した.NCS-1は幼少期の心臓に神経並みに高発現し,NCS-1を欠損するマウスでは幼少期の心筋収縮力および細胞内Ca2+シグナルが顕著に低下していた.詳細な解析から,NCS-1は,SR上のCa2+放出チャネルであるイノシトール3リン酸受容体(IP3R)と結合し,Ca2+/カルモジュリン依存性キナーゼⅡの活性化を介してSR Ca2+ポンプ活性を上昇させ,SR内のCa2+量を増加させることにより構造的に未熟な幼少期の心筋収縮を増強していることが明らかとなった.さらに,NCS-1は心肥大形成の際にも発現量が上昇し,IP3Rと協同して遺伝子発現に重要な核内Ca2+シグナルを上昇させ,心肥大形成に寄与している可能性が示唆された.これらの結果は,これまで知られていなかった幼少期のECカップリングおよび心肥大形成の機構を示すものである.さらにミトコンドリアは幼少期心筋では過少であるが,私達は,NCS-1がミトコンドリアの機能亢進によりストレス下の心筋サバイバルにも寄与することを見出した.以上の結果から,Ca2+シグナル調節に関わるNCS-1関連タンパク質は,幼少期における心疾患,心肥大など対する新規薬物標的になり得る.

著者関連情報
© 2021 公益社団法人 日本薬理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top