日本薬理学雑誌
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特集:若手研究者が切り拓く,男性泌尿生殖器疾患の最新研究
ナトリウム恒常性を司る輸送体による精子鞭毛運動の超活性化制御
竹井 元
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2022 年 157 巻 3 号 p. 176-180

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抄録

ヒトを含む哺乳類の精子は,受精能獲得と総称される一連の生理学・生化学的なプロセスを経なければ卵と受精することが出来ない.受精能獲得に伴い,精子の鞭毛運動は通常の活性化状態から,鞭毛の屈曲が非常に大きいむち打ち状の運動である超活性化状態へと変化する.近年,受精能獲得,特に超活性化を向上させる処理を精子にすることで,体外受精率が向上し,さらにその後の胚発生率まで改善することが明らかになった.すなわち,超活性化は体外受精などの生殖補助医療の改善を考える上で有力なターゲットとなる.それにも関わらず,超活性化の制御機構は未だに明らかとなっていない.筆者は,超活性化の制御機構について,イオンやチャネル・トランスポータの側面から解明することを目指し,研究を行っている.体外受精用の培地と卵管内のNa濃度,K濃度が大きく異なることを見出したことから,これらイオン濃度の違いが受精能獲得,特に超活性化に与える影響について,超活性化運動が観察しやすいハムスターの精子を用いて調べた.その結果,細胞外Naによって超活性化運動の発現が抑制されており,その制御にはNa/Ca2+ Exchangerが関わることが分かった.さらに,細胞内外のNa恒常性を制御する上で中心的な分子であるNa/K ATPaseの精巣特異的なアイソフォームであるα4が,超活性化運動の発現に伴う鞭毛の波形変化に必須であることが明らかとなった.その一方で,細胞外K濃度を卵管内と同等の20 mMまで上昇させると,膜電位は脱分極するが,超活性化には大きな影響がないことが分かった.これらの結果は,細胞外のNa濃度及びその制御に関わる一次・二次性能動輸送に関わるトランスポータが,膜電位の制御を介さずに超活性化を制御すること,またそれらトランスポータが生殖補助医療の改善へ向けた有力なターゲット分子となることを示唆する.

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