2022 年 157 巻 6 号 p. 464-473
脳動脈瘤によるくも膜下出血(aneurysmal subarachnoid hemorrhage:aSAH)は,特発性くも膜下出血の85%を占め,日本人の発症ピークは50歳代と報告されている.重篤な合併症として脳血管の可逆的狭窄である脳血管攣縮が,aSAH発症4~14日後に40~70%の患者で発現する.脳血管攣縮を発現した患者の17~40%は遅発性虚血性神経脱落症状(delayed ischemic neurological deficit:DIND)を呈し,そのうち約半数が脳梗塞に至ると報告されている.脳血管攣縮の発現メカニズムは十分には明らかにされていないが,メカニズムの一つとして,強力かつ持続的な血管収縮物質であるエンドセリン(ET)の関与が考えられている.すなわち,aSAH発症後に酸化ヘモグロビン誘発性のET産生及び赤血球からのET放出の双方によってET濃度が上昇し,ETA受容体を介して血管収縮を来すというメカニズムである.エンドセリン受容体拮抗薬であるピヴラッツ®点滴静注液150 mg(一般名:クラゾセンタンナトリウム)は,ETA受容体に対する高い選択性を有し,その親和性はETB受容体の約1,000倍である.クラゾセンタンは日本人を対象とした臨床試験において脳血管攣縮の抑制だけでなく,それに関連した新規脳梗塞,DINDといった臨床症状,及び原因を問わない死亡(Morbidity/Mortalityイベント)の発現に対してプラセボに比べ有意な抑制作用を示した.この結果をもとに「脳動脈瘤によるくも膜下出血術後の脳血管攣縮,及びこれに伴う脳梗塞及び脳虚血症状の発症抑制」を効能又は効果として,2022年1月に製造販売承認を取得した.本剤がaSAH患者の後遺症リスクの低下,生命予後の改善に寄与することが期待される.