日本薬理学雑誌
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新薬紹介総説
アシミニブ塩酸塩(セムブリックス®錠20 mg/40 mg)の薬理学的特性及び臨床試験成績
鄭 智恵有吉 泰亮米田 智廣香川 雄輔河北 泰紀真木 彰郎
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2023 年 158 巻 3 号 p. 273-281

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抄録

アシミニブ塩酸塩(販売名:セムブリックス®錠20 ‍mg/40 ‍mg)は,チロシンキナーゼ阻害薬に分類され,BCR::ABL分子のABL領域にあるミリストイルポケットを作用点とするものとしては,世界初である.本邦では,2022年3月28日に前治療に抵抗性又は不耐容の慢性骨髄性白血病(CML)の治療薬として承認された.CMLに対する既存のチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)がBCR::ABL1のアデノシン三リン酸(ATP)結合部位を作用点とするのに対して,アシミニブはBCR::ABL1のアロステリック部位であるミリストイルポケットに特異的に結合し,ABL1ファミリー分子(ABL1,ABL2,BCR::ABL1)を阻害する.このアシミニブの薬理特性から,BCR::ABL1に対するspecifically targeting the ABL myristoyl pocket(STAMP)阻害薬と分類される.In vitro及びin vivoにおける薬効薬理試験において,アシミニブは細胞増殖抑制及び抗腫瘍効果を示した.国際共同第Ⅰ相first in human(FIH)試験では,慢性期及び移行期のCML患者を対象としてアシミニブ単剤での最大耐量(MTD)及び推奨用量(RDE)が検討された.しかしながら,本試験での用法用量ではMTDに到達しなかったため,本試験までに得られた忍容性,安全性,薬物動態(PK)及び予備的な有効性データに基づき,T315I変異を有しない慢性期及び移行期CML患者では40 ‍mg 1日2回,T315I変異を有する慢性期及び移行期CML患者では200 ‍mg 1日2回をRDEとした.2剤以上のTKIによる前治療歴があり,直近のTKI治療に抵抗性又は不耐容の慢性期CML患者を対象とした国際共同第Ⅲ相試験では,主要評価項目である24週時点の分子遺伝学的大奏効(MMR)達成率において,比較対照群であるボスチニブに対するアシミニブの優越性が示された.安全性については,アシミニブ群で最も多く認められた副作用は血小板減少症で,その他に好中球減少症なども認められた.これらの結果からアシミニブは,前治療薬での薬剤抵抗性や有害事象の発現による不耐容で治療に苦慮していたCML患者に対する新たな治療選択肢となることが期待される.

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