日本薬理学雑誌
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新薬紹介総説
KRAS G12C変異陽性の非小細胞肺がんに対する世界初のRAS阻害薬ソトラシブ(ルマケラス®錠)の薬理学的特徴と臨床試験成績
星山 弘敏
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ジャーナル オープンアクセス

2023 年 158 巻 5 号 p. 391-398

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抄録

ソトラシブ(ルマケラス®)は,KRASタンパク質の12番アミノ酸がグリシン(G)からシステイン(C)に変異したKRAS G12Cに選択的に結合し,KRASの活性型への構造変化を不可逆的に阻害する,世界初のRAS阻害薬である.ソトラシブの標的となるKRAS G12Cを生じさせる遺伝子変異(KRAS G12C変異)は非小細胞肺がんにおいて認められる発がんドライバーの1つであり,KRAS G12C変異によりKRASが活性型に維持されることで下流のシグナル伝達が亢進し,腫瘍細胞の増殖及び生存につながると考えられている.ヒトのがんにおけるRAS変異の役割については数十年前から知られていたものの,RASは正常細胞においても機能していること,RASとGTPの親和性が高く細胞内GTP濃度も高いこと,RASは表面構造の起伏が乏しいことから,長らくRASを標的とした創薬は不可能とされてきた.しかし,2013年にKRASのSwitch IIポケットが発見され,KRAS G12Cに特異的に結合する化合物が報告されたことがソトラシブの開発につながった.ソトラシブはKRAS G12C変異陽性細胞株の増殖を抑制するとともに,KRAS G12C変異陽性細胞株を移植したマウスモデルにおいて腫瘍の増殖を抑制した.臨床試験(CodeBreaK 100試験/20170543試験/NCT03600883)では,ソトラシブを1日1回960 mg経口投与したKRAS G12C変異陽性の進行非小細胞肺がん患者における客観的奏効が37.4%で認められた.また,用量制限毒性は認められず,その他の有害事象も忍容可能であった.以上の結果,本邦で2021年3月に希少疾病用医薬品に指定されたソトラシブは,2022年1月に「がん化学療法後に増悪したKRAS G12C変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌」に対する治療薬として承認を取得した.

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