1994 年 104 巻 6 号 p. 469-480
ラットの一過性前脳虚血による受動的回避反応と放射状迷路課題の各学習・記憶障害に及ぼす塩酸ビフェメランの効果を検討した.迷路課題の実験に用いたラットの脳を組織学的に観察して,海馬の神経細胞密度に対する塩酸ビフェメランの効果も検討した.薬物は脳虚血前および脳虚血後に1mg/kg,3mg/kg,10mg/kgあるいは30mg/kgを1日1回ずつ,計6回あるいは14回腹腔内投与した.対照群には同じように生理的食塩液を投与した.塩酸ビフェメランの10mg/kg群は脳虚血による受動的回避反応の反応潜時の短縮を改善させ,その改善作用は対照群に対して有意な差を認めたが,3mg/kg群および30mg/kg群の場合は対照群との間に有意な差を認めなかった.また,塩酸ビフェメランの10mg/kg群は脳虚血による迷路課題の障害を対照群に対して有意に改善させたが,1mg/kg群の場合は対照群との間に有意な差を認めなかった.さらに,塩酸ビフェメランの10mg/kg群は海馬前部CA2領域および海馬後部CA1,CA2,CA3各領域の神経細胞密度を対照群に対していずれも有意に増加させた.迷路課題の記憶スコアーと海馬後部CA1領域の神経細胞密度との間に高い相関を認めた.これらのことから,塩酸ビフェメランは脳血管障害に伴う海馬の神経細胞を壊死や変性から保護し,学習・記憶障害に有効であることが示唆された.