日本薬理学雑誌
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新規抗腫瘍薬塩酸イリノテカン(CPT-11)の下痢誘発機序に関する研究
高砂 浄笠井 義男北野 裕森 和彦柿畑 耕司広橋 正章野村 護
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1995 年 105 巻 6 号 p. 447-460

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抄録

新規抗腫瘍薬である塩酸イリノテカン(CPT-11)の下痢誘発機序ならびにその治療方法について検討した.1)生理的食塩液経口前負荷(10ml/kg)ラットにおいて,CPT-1180mg/kg単回静脈内投与は,投与後約1時間以内にほぽ全例で水様性下痢を誘発した.この下痢は,アトロピン(1mg/kg)あるいはオンダンセトロン(1mg/kg)の単独皮下処置で部分的に,両薬の併用,クロニジン(0.3mg/kg)あるいはモルヒネ(10mg/kg)の単独処置でほぼ完全に抑制された.2)同用量のCPT・11は,消化管ル―プ法にて評価した水分吸収能に対して抑制作用を示し,この作用は上記の止潟薬により下痢と同様に阻害された.また,消化管ループ内に直接注入したCPT-11は,注入1~7時間にわたって水分吸収抑制のみならず分泌充進作用を示した.3)CPT-1160mg/kg単回静脈内投与による消化管組織障害活性は,5-フルオロウラシル270mg/kgのそれと比較して極めて軽微であったが,CPT-1160mg/kgを4日間反復投与することで消化管組織障害を伴った遅延性の下痢症状が投与開始5-7日目に観察された.オンダンセトロンを除く上記の止濡薬は,反復投与開始3および4日目の投与直後に発現した水様性下痢に対して抑制効果を示したが,遅延性の下痢症状に対してはいずれの止潟薬も無効であった.以上の成績より,CPT-11は消化管組織障害を介した遅延性下痢誘発活性は比較的弱いが,消化管内水分吸収能の抑制作用を一部介した機能性下痢を急性期(投与後数時間以内)に誘発する活性をもつことが示唆された.また代表的な止潟薬は,CPT-11による急性期の機能性下痢を抑制したが,反復投与により発現する消化管組織障害を伴った遅延性下痢に対しては改善効果を示さないことが明らかとなった.

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