1999 年 114 巻 supplement 号 p. 17-21
アトピー性皮膚炎(AD)の動物モデルと考えられているNC系マウスをconventional環境下で飼育すると,自然発症的に掻き動作を惹起する。この行動は実験者の方へ注意を向けさせることや,オピオイド拮抗薬のnaltrexone (1 mg/kg)の皮下投与により抑制され,ヒトの痒みに類似した性質を示すことから,痒みに関連した行動であると考えられる。一酸化窒素(NO)合成酵素のNG-nitro-L-arginine methyl ester (L-NAME, 10 mg/kg)の静脈内投与はエナンチオマーのD-NAME (10 mg/kg)や生理食塩水投与群と比較して有意にNC系マウスの掻痒反応を抑制した。マイクロダイアリシス法によりNC系マウスが掻き動作を惹起する吻側背部,及び掻き動作を惹起しない尾側背部の皮膚内NO濃度を測定したところ,吻側背部において尾側背部に比べ著しいNO濃度の増加がみられた。さらに,L-NAME (10 mg/kg, i.v.)はNC系マウスの吻側背部におけるNO濃度の増加を抑制した。これらの結果は,NC系マウスの自然発症掻痒反応の発症又は増悪にNOが関与することを示唆する。NC系マウスがADの動物モデルであることを考え合わせると,NOがAD患者の痒み治療の新しい標的となる可能性が推測される。