日本薬理学雑誌
Online ISSN : 1347-8397
Print ISSN : 0015-5691
ISSN-L : 0015-5691
急性虚血犬における Nitroglycerin の左室壁厚におよぼす効果について 超音波法による検討
亀井 清光
著者情報
ジャーナル フリー

1981 年 77 巻 4 号 p. 371-381

詳細
抄録

著者は Gaasch らが用いた方法にもとづいて超音波診断装置により,左室壁厚エコー図を記録し,急性心筋虚血作成犬での虚血部の左室の壁厚に及ぼす nitroglycerin(NTG)の効果を調べた.対象は14頭(平均15kg)の麻酔開胸犬で,左室の心膜上の左前下行枝の分枝,対角枝(以下 DB と略す)の灌流領域に小型の超音波トランスデューサー(minitransducer)(直径5mm,厚さ3mm)を縫合し,DB を結紮した.結紮90~120分後,同部の左室壁エコーが一定状態になった時点で,NTG をはじめ30γ/kg,次に30分間おいて100γ/kg を投与し,おのおの15分間,経時的に左室壁エコーを記録し,その効果を観察した.血行動態的変化は,大動脈基部にカテーテルを留置して,大動脈圧を記録した.一部の犬については,前下行枝に電磁流量計をかけ,冠血流量(3頭)を測定し,さらに小型の超音波トランスデューサーからの心外膜心電図(5頭)も同時に記録した.結紮前および後90~120分の時点では拡張末期壁厚(Thd),収縮末期壁厚(Ths)は,それぞれ9.2±1.4mm(平均±1標準偏差)から8.4±1.1mm,14.1±2.2mm から 12.7±2.2mm と有意の減少を示し(P<0.05,P<0.05),拡張期最大壁厚変化率(Max dth/dt(D)),収縮期最大壁厚変化率(Max dth/dt(S))も62.2±20.6mm/sec から48.7±22.8mm/sec,45.6±15.5mm/sec から37.0±16.7mm/sec と有意に減少した(P<0.02,P<0.05).この間血圧は不変であったが,心拍数の有意の減少をみた(P<0.001).次に急性虚血犬での NTG 投与前後の左室壁エコー図からの計測では,Thd,Max dth/dt(D)は不変であったが,Ths は12.7±2.2mm から13.7±2.0mm(P<0.05)(30γ/kg投与時)12.5±2.5mmから13.9±2.5mm(P<0.05)(100γ/kg投与時)と有意の増加を認め,またMax dth/dt(S)も37.0±16.7mm/secから55.0±26.5mm/sec(P<0.01)(30γ/kg投与時),41.0±27.8mm/sec から56.0±33.7mm/sec(P<0.01)(100γ/kg投与時)と有意の増加をみとめた.一方 NTG の投与により,血圧は下降し,心拍数は増加したにもかかわらず冠血流量の増加をみとめた.これらのことから,NTG 投与による Ths,Max dth/dt(S)などの局所虚血部心筋機能の改善には側副血行路からの供血,冠動脈拡張作用が大きく寄与しているものと推測した.

著者関連情報
© 社団法人 日本薬理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top