日本薬理学雑誌
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歯牙フッ素症におけるエナメル質の微細構造と化学組成に関する実験的研究
篠田 寿小椋 秀亮
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1982 年 80 巻 3 号 p. 209-220

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抄録

本研究は,低温プラズマ灰化装置を用いた顕微灰化法を走査型電子顕微鏡的検索と組み合せ,フッ化物が歯のエナメル質形成にいかなる作用をおよぼすかについて観察し,これをエナメル質の化学定量分析の結果と比較検討したものである.実験には雄性Wistar系ラット16匹(平均体重179g)を用い,これらを2群に分けて0および100ppmのフッ素含有飲料水を70日間自由に摂取させた.飼育終了後,成熟エナメル質を含む上顎切歯矢状軸縦断研磨標本を作製し,0.05N HCIで30秒間etchingした後,走査型電子顕微鏡を用いて観察した.またこれらの切片のいくつかは有機質成分を分解除去する目的でさらに低温灰化処理を加え同様に観察を行なった.一方,フッ化物投与によるエナメル質の化学組成の変動を知る目的で,別に24匹の雄性Wistar系ラット(平均体重115g)を用い,これらのラットには0,45および113ppmのフッ素飲料水を同様に70日間摂取させた.飼育終了後,上下顎切歯より各個体別に成熟エナメル質粉末を採取し,Ca,P,FおよびC,H,Nの化学定量分析を行なった.走査型電子顕微鏡による観察の結果,フッ素投与群ではエナメル質の外側部に強い石灰化不全が認められた.特にエナメル小柱中心部へのミネラルの沈着が強く阻害されており,この部位における有機質量が相対的に増加している可能性が示唆された.また同様な所見は小柱間質にも認められた.一方,エナメル質粉末の化学定量分析の結果によると,エナメル質単位重量当りのCa,P量は実験群において有意の減少を示し,逆に,有機質に由来する炭素量はフッ素用量に依存して増加していることが定量的に確認きれた.エナメル質中へのミネラルの沈着が抑制され,最終的に形成されたエナメル質中に比較的多量の有機質が残存していることを示す以上の所見は,急激なミネラルの沈着と有機基質の脱却として特徴づけられるエナメル質の成熟過程がフッ化物によって強く阻害された結果であると解釈された.

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