日本薬理学雑誌
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咳嗽反射時の呼吸中枢神経機構に及ぼす鎮咳薬の影響
細川 友和亀井 淳三三澤 美和柳浦 才三福原 武彦
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1982 年 80 巻 5 号 p. 367-374

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抄録

咳嗽反射時における各周波数帯域成分毎の変化に及ぼす鎮咳薬の影響を横隔神経活動を構成する周波数帯域成分毎のパワースペクトル解析による計量的評価を行い検討した.横隔神経遠心性発射活動は横隔神経切断中枢端より導出記録した.横隔神経活動電位の各周波数帯域成分はフィルターを用いて100Hz毎に帯域濾波しパワースペクトル解析を行って算出した.気管粘膜の器械的刺激により誘発した咳嗽反射時には各周波数帯域成分のパワー値の増大が認められ,特に,2~100Hz帯域成分のパワー値が他の周波数帯域成分に比べ有意に増大することを見出した.codeine 1,3mg/kgの静脈適用では咳嗽反射時に認められた各周波数帯域成分のパワー値の増大は全周波数帯域にわたり用量依存的に抑制した.dextromethorphan 5mg/kg適用後5分においては咳嗽反射時に認められた2~100Hz帯域成分の増大は約30%抑制されたが,他の帯域成分にはほとんど影響は認められなかった.10mg/kg適用では2~100Hz帯域成分のパワー値の抑制とともに適用後10~15分には全周波数帯域成分のパワー値の抑制が認められた.fominoben 4mg/kg適用では各周波数帯域成分のパワー値の増大に対する抑制は認められなかった.一方,fominoben 8mg/kg適用後5~30分に低周波数帯域成分のパワー値の増大は有意に抑制された.本研究において,咳嗽反射時に認められた100Hz以下の帯域成分のパワー値の増大が三薬物により抑制されたが,他の周波数帯域成分のパワー値に対してはそれぞれの薬物の正常呼吸に対する作用に一致した傾向の変化が認められた.以上のことから,咳嗽反射発現の中枢内統合過程における三種鎮咳薬の作用機序には相異のあることが考えられる.したがって,咳嗽反射の求心路と呼吸リズム形成の両システムにおける主導的なニューロン機構が異なる可能性が考えられ,またその結果が横隔神経活動の帯域成分の構成比率の変化に反映されてくるものと考える.

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